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電気自動車 (EV) やハイブリッド車 (HV) は絶えず変化を重ねており、内部の電子機器も同様です。これらの自動車の全体的な形態や機能に関して、増え続ける電子機器は重要な役割を担っています。その一方で、車を運転するドライバーは変化していません。ドライバーが EV や HV に引き続き期待しているのは、1 回の充電での走行距離の延長、いっそう手ごろな価格設定、充電時間の短縮、安全性の維持です。しかし、このような機能の強化と低価格を両立するには、設計者はどうすれば良いでしょうか?

安全性、電力密度、電磁干渉 (EMI) の要件が厳格化する中で、これらの課題に取り組むために、さまざまな電源アーキテクチャが新しく導入されています。その 1 つが、重要な各負荷に対して個別のバイアス電源を割り当てる分散型電源アーキテクチャです。

EV内の従来型バイアス電源アーキテクチャ

自動車設計エンジニアは、EV の電源要件に基づいて特定の電源アーキテクチャ方式を設計できます。図 1 に示す従来型のアプローチは集中型電源アーキテクチャであり、1 個の集中型トランスと単一のバイアス・コントローラを使用して、すべてのゲート・ドライバのバイアス電圧を生成します。

 1HV/EV のトラクション・インバータ内の集中型電源アーキテクチャ

 

集中型電源アーキテクチャには低コストという利点があるので、従来は一般的なソリューションでした。ただし、このアーキテクチャを採用した場合、障害の管理や電圧のレギュレーションが困難な場合があるほか、レイアウトにも課題が伴います。さらに、集中型アーキテクチャはノイズの影響を受けやすく、システムの特定の領域で、高さがあり重い部品を複数使用することになります。

最後に、信頼性と安全性の優先度が高まる中で、集中型電源アーキテクチャからの電力供給は冗長性を欠いており、バイアス電源の部品が 1 個故障しただけで、大きなシステム障害につながる恐れがあります。電源障害に対する保護の目的で分散型アーキテクチャを実装すると、信頼性の高いシステムを実現できます。

分散型電源アーキテクチャを採用して高い信頼性を実現

自動車が時速 65マイル (104.6km) で走行しているときに、トラクション・インバータ・モーターの中で 1 個の小さい電子部品の障害が発生した場合、突然に自動車が完全停止してしまうことや、エンジンの出力がゼロになってしまうことを望む人はいないでしょう。安全性と信頼性を維持するために、冗長型電源やバックアップ電源をパワートレイン内に配置することが標準的になってきました。

分散型電源アーキテクチャは、各ゲート・ドライバの近くに適切なレギュレーションを実施した専用のローカル・バイアス電源を割り当てる方法で、EV の環境で課される信頼性の基準を満たします。このアーキテクチャは、冗長性を実現し、シングル・ポイント障害に対するシステムの対応方法を改善します。たとえば、1 個のゲート・ドライバに組み合わせた 1 個のバイアス電源で障害が発生した場合、他の 5 個のバイアス電源は引き続き動作し、組み合わせ先の各ゲート・ドライバも引き続き動作します。6 個のゲート・ドライバのうち 5 個が引き続き動作している場合、モーターの回転を徐々に遅くし、適切に制御された方法で停止させることが可能です。または、そのまま停止することなく動作を継続できる可能性もあります。電源システムでこのような設計を採用した場合、自動車に乗っている人は不調に気が付かない可能性さえあります。

フライバックやプッシュプル・コントローラなど、外部トランスを採用したバイアス電源は、高さ、重量、および占有面積が大きいので、軽量エレクトロニクス製品での分散型アーキテクチャの使用には向いていません。EV の電源システムには、より先進的な部品が必要となります。絶縁型 DC/DC バイアス電源モジュールである 『UCC14240-Q1』 など、より小型のトランス内蔵型モジュールは、高さの低いプレーナ (平面型) 磁気素子を搭載した単一の最適化済みモジュール・ソリューションに、トランスと各種部品を内蔵しています。

IC サイズのパッケージにプレーナ (平面型) トランスを内蔵した結果、電源システムのサイズ、高さ、重量を大幅に低減できます。『UCC14240-Q1』 は内蔵トランスと絶縁を通じて制御を容易にし、1 次側と 2 次側の間の低静電容量を実現しています。その結果、電力密度とスイッチング速度の高い各種アプリケーションで、コモンモード過渡耐性 (CMTI) を改善できます。1 次側と 2 次側の制御と絶縁機能を完全に統合することで、レギュレーション済みの ±1.3% 絶縁型 DC/DC バイアス電源を一体型デバイスで実現しています。最大 105℃ までの温度で 1.5W の出力電力を供給する『UCC14240-Q1』 は、図 2 に示すように分散型電源アーキテクチャでゲート・ドライバに電力を供給できます。

 2EV/HV のトラクション・インバータ内で UCC14240-Q1 を使用する分散型電源アーキテクチャ 

分散型電源アーキテクチャでパワートレイン・システムを駆動する場合の他の検討事項

EV は信頼性と安全性に関する高い基準を要求し、その要件は電力変換に関係する個別の電子コンポーネントにまで波及します。各コンポーネントは、周囲温度が 125℃ またはそれ以上であっても、制御された実証済みの方法で動作する必要があります。各絶縁型ゲート・ドライバは「スマート」であり、複数の安全性機能と診断機能を搭載しています。システム内の各ゲート・ドライバや他の電子部品に電力を供給する低消費電力の各バイアス電源にも、低 EMI の達成方法など、いくつかの進歩が求められます。『UCC14240-Q1』 は TI の内蔵トランス技術と、1 次側と 2 次側の間の静電容量が 3.5pF と小さい値であるトランスを活用して、高速スイッチングに起因する EMI を低減し、150V/ns を上回る CMTI を容易に実現することができます。

分散型アーキテクチャでバイアス電源を絶縁型ゲート・ドライバの近くに配置することによって、プリント基板のレイアウトがよりシンプルになり、ゲート・ドライバに供給する電圧のレギュレーションを改善できるため、最終的にパワー・スイッチのゲートをより安定的に駆動できます。これらの要因は、トラクション・インバータの効率と信頼性の改善につながります。トラクション・インバータは通常、100kW ~ 500kW の範囲で動作します。このような大電力システムは、熱損失を最小限に抑えるために最高の効率を必要とします。熱ストレスは、部品の障害を引き起こす主な原因の 1 つだからです。

このような EV 向け電源システムの大電力化が進んでいる現在、電源の小型化と効率向上のために、SiC (シリコン・カーバイド) と GaN (窒化ガリウム) の各パワー・スイッチについて考慮するのは適切なことです。どちらの半導体技術にもいくつかの利点がありますが、成熟した従来の IGBT (絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ) を使用する場合と比較して、より厳格にゲート・ドライバ電圧のレギュレーションを実施する必要があります。また、これらのパワー・スイッチで使用する部品は、安全性絶縁バリアをまたぐ静電容量が小さく、CMTI が大きいことが求められます。これらのパワー・スイッチは、従来想定していた値より高速なエッジ・レートで高電圧のスイッチングを実行することになるからです。

高信頼性と長距離化を実現する将来の EV への流れ

ドライバーが引き続き乗用車に求めているのは、排出物の削減、走行距離の延長、安全性と信頼性の改善、一般的により多くの機能の搭載を、低価格で実現することです。EV でこのような要求の現実化を可能にするのは、電源アーキテクチャの革新や、それらに関係する絶縁型ゲート・ドライバとバイアス電源の革新などのパワー・エレクトロニクスの進歩だけです。

分散型電源アーキテクチャへの移行は、絶縁型高電圧環境で信頼性の大幅な向上につながる一方、コンポーネント数の増加によるサイズおよび重量の増加という課題も伴います。この点で、『UCC14240-Q1』 バイアス電源モジュールのような高速スイッチング完全統合型電源ソリューションを採用すると、システム・レベルの面積と重量の両方を節減することができます。


参考情報:
+ホワイト・ペーパー:
高性能な統合型パワートレイン・ソリューション:EVに適用するための要件
Power Through the Isolation Barrier: The Landscape of Isolated DC/DC Bias Power Supplies”(英語)
+製品情報:
UCC14240-Q1
UCC5870-Q1
+参考技術記事(英語)
The value of a thin, isolated power solution

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※上記の記事はこちらの技術記事(2021年9月27日)より翻訳転載されました。 
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