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塩化チオニル・リチウム (LiSOCI2) バッテリは、スマート流量計で一般的に使用されています。二酸化マンガン・リチウム (LiMnO2) のような他のバッテリ・ケミストリーよりエネルギー密度が高く、コスト/ワット比も優れているからです。LiSOCl2 バッテリの 1 つの短所は、ピーク負荷への応答能力が高くないことです。その結果、使用可能なバッテリ容量が減少してしまいます。そのため、この記事では、数百 mA の範囲に達するピーク負荷をバッテリから分離する (コンデンサなどの電力バッファを中間に配置してエネルギーを少しずつ蓄積しておき、短期的なピーク動作時に主にバッファから電力を引き出してバッテリからのエネルギーの供給をできるだけ抑える) ために有効な手法について説明します。その結果、バッテリ動作時間を延長しやすくなります。

実質的に使用可能なバッテリ容量 (Ah 単位の電流容量) を最大化することは重要です。システム設計で、以下の特長をサポートできるようになるからです。

  • 同じバッテリを使用して、メーター読み取り回数とデータ送信回数を増やすことが可能
  • 同じバッテリを使用して、バッテリ動作時間の延長が可能
  • より小型のバッテリを使用して、従来と同一の動作時間を確保

全体的な効果を通じて、バッテリ・コストと保守コストを最小化できると同時に、複数の種類の流量計に対して単一の流量計設計を再利用しやすくなるので、開発コストも低減できます。

TPS61094』 デモ・ビデオ (英語) を見る

設計時の課題:バッテリ動作時間の延長

メーターの設計を成功させるには、長い動作時間 (15 年以上) にわたる持続能力に加えて、バルブ制御、データ記録、データ送信などの各種機能を実現する必要があります。メーターの動作時間を長くするには、バッテリ動作時間の延長が効果的な方法です。ただし、バッテリを負荷に直結し、それらの間で電力バッファを何も使用しない場合、メーターの複雑な負荷プロファイルが原因でバッテリの寿命性能が低下する可能性があります。

設計者は電流レベルに基づいて標準的なメーターの負荷消費プロファイルをスタンバイ・モード、中間ステージ・モード、アクティブ・モードに分類することができます。各モードは、バッテリ動作時間にそれぞれ異なる影響を及ぼします。

  • スタンバイ・モードでは、5μA ~ 100μA の電流を消費します。この値は主に、計測機能、マイコン、保護回路の静止電流 (IQ) によるものです。この絶対値自体は非常に小さい値ですが、バッテリ交換を前提としない場合、通常はこの値がメーターの寿命を大きく左右します。スタンバイ・モードでは、接続された DC/DC コンバータの静止電流 (IQ) をナノアンペア (nA) の範囲に収めるため、電力バッファのリーケージを小さくして効率を高めることが求められます。
  • 中間ステージ・モードでは、2mA ~ 10mA の電流を消費します。RX (受信) 段のアナログ・フロント・エンドは通常、この負荷に寄与します。このモードでエネルギー損失を最小化するには、電力バッファの効率が重要です。
  • アクティブ・モードでは、最大の電流を消費します。アクティブ・モードの通常の負荷は、バルブの駆動や、TX (送信) 段のアナログ・フロント・エンドであり、20mA から数百 mA の電流を必要とします。このような電流を LiSOCl2 バッテリから直接引き出すと、バッテリ容量の大幅な低下を招きます。

表 1 に、負荷と温度のさまざまな条件を使用したときに Saft LS33600 バッテリの容量が公称容量 17Ah からどのくらい低下するかを示します。動作温度が +20℃ で、負荷電流が 200mA の場合、容量は 42% 低下します。したがって、バッテリから負荷に電力を直接供給する方法は決して推奨できません。ピーク電流を 10mA 未満に制限できる唯一の方法は、リーケージの小さい電力バッファを採用することです。

容量 (Ah) –40℃ –20℃ +20℃
10mA –41.2% –17.6% 低下なし
100mA –82.35% –58.8% –23.5%
200mA N/A N/A –42.0%

表1:Saft Batteries 社の 『LS33600』 を使用したときの各電流での容量の低下

静止電流 (IQ) が 60nA である TI の昇降圧コンバータ『TPS61094』を採用すると、バッテリ動作時間を延長すると同時に、スタンバイ、中間ステージ、アクティブの各モードにわたって優れた効率を維持することができます。『TPS61094』には、次の 3 つの主な利点があります。

  • 広い負荷範囲にわたって非常に高い効率: 
    『TPS61094』 は VOUT = 3.3V、VIN > 1.5V の条件下で、5μA ~ 250mA の負荷に対して 90% を上回る平均効率を達成します。この結果、流量計の大半の使用状況で効率的な電力供給を実現できます。
  • バッテリから直接引き出すピーク電流を制限:
    『TPS61094』 は、スーパーキャパシタを充電するために Buck_on (降圧有効) モードで動作する場合や、VOUT の重い負荷にバッテリから電力を供給するために補助モードで動作する場合、自らのピーク入力電流を制限することができます。図 1 に 『TPS61094』 の構成を示し、図 2 に VOUT で 200mA の負荷パルスを 2 秒にわたってを供給する状況を示します。負荷が重いフェーズ 1 では、ピーク電流を 7mA に制限しています。フェーズ 2 でこの負荷を解除した後、このデバイスは 10mA の定電流を使用してスーパーキャパシタへの充電を行います。充電によってスーパーキャパシタの電圧が 2.0V に戻った時点で、デバイスは充電を停止しますが、引き続き Buck_on (降圧有効) モードにとどまります。

 図1:『TPS61094』 の構成

 図 2:重い負荷の使用時にバッテリのピーク電流をオシロスコープで表示した結果

  • 温度範囲全体にわたって、スーパーキャパシタから供給できるエネルギーは変化しない:
    通常、ハイブリッド層コンデンサ (hybrid-layer capacitor:HLC) または電気二重層コンデンサ (electric double-layer capacitor:EDLC) を電力バッファとして使用すると、パルス負荷対応能力を改善できます。ただし、これらの受動部品に蓄積できるエネルギーは、バッテリの電圧に依存します (Q = CV)。温度が低い場合、バッテリ電圧も低下するので、HLC または EDLC のパルス負荷対応能力も低下し、バッテリからの消費電流は増加します (P = VI に従い、仮にバッテリから供給する電力が同じ場合であっても電圧が低下すると電流はそれに反比例して増加する。実際は、コンデンサの電荷 Q = CV が減少した分、バッテリから引き出す電力が増加するうえ、バッテリの電圧も低下しているので、バッテリから引き出す電流はかなり増加する)。その点、『TPS61094』 は温度にかかわりなくスーパーキャパシタに印加する電圧を静的な値に維持する (降圧動作によりバッテリの電圧に関わらず一定の電圧でスーパーキャパシタを充電する) ので、電圧低下に伴うこの問題を防止できます。

スーパーキャパシタから供給できるエネルギー (Ah 単位の電流容量、言い換えると蓄積可能な電荷 Q) を定義するのは、スーパーキャパシタの静電容量と、スーパーキャパシタの両端間電圧の設定最大値 (電荷 Q= CV は Q = It でもあり、電流と時間の積という形で表現できるので、静電容量 C が大きいほど Q が大きくなり、電流 I が同じ場合は電流を供給できる時間 t が長くなる)、および『TPS61094』 の低電圧ロックアウトの値です。スーパーキャパシタから供給できるエネルギーが大きくなるほど、連続的な重い負荷を使用する場合の動作時間が長くなります。

図 3 に、『TPS61094』 を使用する電力バッファ・ソリューションと、スーパーキャパシタ単体の使用時を個別に示します。『TPS61094』 ソリューションの場合、スーパーキャパシタの電圧を 2V に設定しています。連続負荷に電力を供給する場合、スーパーキャパシタの電圧が 0.6V になるまで、『TPS61094』 はスーパーキャパシタから電力を引き出すことができます。したがって、式 1 を使用して、スーパーキャパシタから引き出せるエネルギーを計算できます。

 (1)

ここで、η (イータ) は、コンバータの平均効率です。

ワースト・ケースである –40℃ を想定すると、入力電圧が 2V ~ 0.6V の範囲で、出力電流が 150mA の場合、『TPS61094』 の平均効率は 92% です。式 2 に、計算結果を示します。

 (2)

 図3:『TPS61094』 と HLC/EDLC 構成の対比

HLC または EDLC を使用するソリューションの場合、コンデンサから引き出し可能なエネルギーは、バッテリ電圧に相関します。–40℃ で 10mA の電流を引き出す場合、『LS33600』 の電圧は 3V に低下します。式 3 で、引き出し可能なエネルギーを計算します。

 (3)

式 2 と式 3 それぞれの結果を比較すると、『TPS61094』 を使用するソリューションは、HLC や EDLC を単体使用するソリューションに比べて、引き出し可能なエネルギーが 2 倍になっています。つまり、極端な状況下であっても、負荷に対して供給できるエネルギーが増加し、バッテリから引き出すピーク電流が小さくなります。たとえば、バルブを駆動するために 3.3V で 200mA 負荷に電力を供給する場合、HLC または EDLC の単体ソリューションがコンデンサ単体で負荷に対応できるのはわずか 2.8 秒です。それに対し、統合型のスーパーキャパシタを 6 ピン (SUP) に接続した昇降圧コンバータ『TPS61094』 は、電力バッファがすべての負荷電流を供給すると仮定する場合、最長 7.8 秒にわたって負荷に対応できます。

まとめ

流量計の負荷消費プロファイルは複雑なので、LiSOCl2 バッテリの動作時間を延長するには、何らかの電力バッファが必要です。『TPS61094』 は多様な動作条件にわたって優れた効率を達成できるので、動作時間の延長に伴う課題に対処するうえで、『TPS61094』 は良好な選択肢になります。バッテリから引き出すピーク電流を制限することで、この昇降圧コンバータはバッテリの電流容量を最大限に活用し、スーパーキャパシタから引き出せるエネルギーを増大させます。その結果、HLC または EDLC を単体使用するソリューションに比べて、低温条件下でこのシステムはより長い時間にわたる動作を確保できます。

参考情報:
『TPS61094』データシート
+アプリケーション・ノート(英語):
The Long-lifetime, cost-competitive solution in smart meters based on TPS61094
+アナログ・デザイン・ジャーナル(英語):
What It Is, What It Isn’t, and How to Use It
+技術記事:
流量計のバッテリ寿命を延ばす5つの事例

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※上記の記事はこちらの技術記事(2021年11月2日)より翻訳転載されました。
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