最新の産業用システムの大半は AC/DC 電源を採用しています。この種の電源は AC グリッド (電力網) からエネルギーを取り入れ、適切にレギュレーションされた DC 電圧として電気機器に電力供給します。世界全体で電力消費量が増加している中で、AC/DC 電力変換プロセスに伴うエネルギー損失は、電源エンジニアが考慮するエネルギー・コスト全体の中で大きなウェイトを占めるようになっています。テレコムやサーバーなど電力消費量の多いアプリケーションの場合はなおさらです。

GaN (窒化ガリウム) を採用すると、AC/DC 電源で効率を高め、損失を減らすのに役立ちます。その結果、最終製品の総所有コスト (TCO) の削減にもつながります。たとえば、効率向上がわずか 0.8% であっても、100MW のデータ・センターで GaN ベースのトーテム・ポール PFC (力率補正) を導入すると、10 年間で 700 万ドルものエネルギー・コストを節減できます。

PFC 段で適切なトポロジを選択

世界各地の政府による規制では、グリッドからノイズの少ない電力を引き出せるように、AC/DC 電源に PFC 段を使用することが要件となっています。PFC は、AC 入力電圧と同じ波形に従うように AC 入力電流を成形します。それにより、グリッドから得られる実効電力が最大化され、電気製品は、無効電力がゼロである純粋な抵抗と同様に動作するようになります。

図 1 に示すのは、従来型の PFC トポロジである昇圧 PFC (AC ラインの後段にフルブリッジ整流器を配置) とデュアル昇圧 PFC です。古くからある昇圧 PFC は一般的なトポロジであり、フロント・エンド・ブリッジ整流器を採用していますが、これは非常に大きい導通損失を発生させます。デュアル昇圧 PFC を採用すると、フロント・エンド・ブリッジ整流器が存在しないため、導通損失は減少しますが、追加のインダクタが 1 個必要です。そのため、コストと電力密度の点で不利になります。

 図 1:PFC のトポロジ:(a) デュアル昇圧 PFC、(b) 昇圧 PFC

他のトポロジのうち、効率を高める可能性があるのは、図 2 に示す AC スイッチ・ブリッジレス PFC、アクティブ・ブリッジ PFC、ブリッジレス・トーテム・ポール PFC です。AC スイッチ・トポロジで使用するのは、オン状態のときに導通する 2 個の高周波 FET (電界効果トランジスタ) と、1 個の SiC (シリコン・カーバイド) ダイオード、およびオフ状態のときに導通する 1 個のシリコン・ダイオードです。アクティブ・ブリッジ PFC は単純に、AC ラインに接続しているダイオード・ブリッジ整流器を、4 個の低周波 FET で置き換えたものです。これらの FET は、追加の制御回路とドライバ回路を必要とします。アクティブ・ブリッジ PFC で使用するのは、オン状態のときに導通する 3 個の FET と、2 個の低周波 FET、およびオフ状態のときに導通する 1 個の SiC ダイオードです。

一方、トーテム・ポール PFC は、ただ 1 個の高周波 FET と、オン状態とオフ状態のどちらでも導通する 1 個の低周波シリコン FET を使用し、これら 3 種類のトポロジの中で最小の電力損失を実現します。加えて、トーテム・ポール PFC を使用する場合、実装する必要のあるパワー半導体の部品点数は最少であり、部品点数、効率、システム・コストの全体を考慮すると、魅力的なトポロジになります。

 図 2:効率を向上させる各種 PFC スイッチ・トポロジ

トーテム・ポール PFC で GaN を採用する利点

従来型のシリコン MOSFET (金属 -酸化膜 - 半導体 FET) はトーテム・ポール PFC との相性があまりよくありません。MOSFET に逆回復電荷が非常に大きいボディ・ダイオードが存在しており、大きな電力損失が生じるほか、貫通電流による破損のリスクが伴うからです。SiC パワー MOSFET は、固有のボディ・ダイオードの逆回復がシリコンより小さいため、シリコン MOSFET よりわずかに優れています。

一方、GaN は逆回復損失がゼロであり、これら 3 種類の技術の中で、全体のスイッチング・エネルギー損失は最小となります。同等の SiC MOSFET に比べて、損失を 50% 以上低減できます。その理由は主に、GaN の高いスイッチング速度 (100V/ns 以上)、寄生出力容量の低減、ゼロ逆回復にあります。GaN FET にはボディ・ダイオードが存在しないので、貫通電流のリスクを全面的に排除できます。

TI は最近、3.5kW 整流器で 98% のピーク効率を達成できるような設計に取り組んでおり、同社の前世代シリコン 3.5kW 整流器の 96.3% というピーク効率に比べて、1.7% の向上となっています。この効率向上を実際の例に当てはめると、GaN ベースのトーテム・ポール PFC を使用する場合、100MW のデータ・センターで 10 年間にわたり最大 1,490 万ドルのエネルギー・コストを節減できるほか、二酸化炭素排出量の削減という追加の利点も実現できます。

逆回復損失が存在せず、出力容量とオーバーラップ損失を低減した TI の GaN を採用することで、Delta Electronics は、エネルギー効率に優れたデータ・センター向けサーバー電源で、最大 99.2% のピーク効率を達成しています。TI の GaN FET はゲート・ドライバを内蔵しているので、最大 150V/ns のスイッチング速度に到達できます。スイッチング周波数が高いと、全体の損失が小さくなるので、Delta は電力密度を 80% 向上させると同時に、効率を 1% 引き上げることができました。

トーテム・ポール PFC の設計で GaN 技術が実現する利点は明らかです。より多くの電源設計者が GaN に移行し、GaN メーカーが革新的な製品をリリースする中で、テレコムやサーバー向け電源の設計者は、電力密度とエネルギー効率の継続的な向上を期待できます。

参考情報:

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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年10月31日)より翻訳転載されました。
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