ユーザー・プログラマブルPMICならば、同じPMICを複数のプロジェクトで再利用できるため、迅速にプロトタイプ作成が進み、開発期間が短縮されます。

仮に、目的のアプリケーションにぴったりのプロセッサが見つかったと想像してみてください。このプロセッサには、SPI(シリアル・ペリフェラル・インターフェイス)や、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)、USB、I2Cなどの、必要な性能とペリフェラルが揃っています。さらに、イーサネットやEtherCATのような適切な通信プロトコルもすべて備わっています。このプロセッサは、プロジェクトの要件に完璧に合致します。

必然的に次は、プロセッサの電源ソリューションに焦点が移ります。何万ものDC/DCレギュレータ、低ドロップアウト・レギュレータ、昇圧レギュレータ、シーケンサ、スーパーバイザを調べて整理するでしょう。フォーム・ファクタが限られている場合、どうすればこれらすべての部品を基板に詰め込めるでしょうか。プロジェクトの締め切りまでに設計が間に合うでしょうか。シーケンシングはこのプロセッサでうまく機能するでしょうか。プロセッサと電源ソリューション間でどのようにソフトウェアを管理することになるのでしょうか。課題が積み上がり始めます。



このようなさまざまな課題に対処するために、多くの場合、設計エンジニアはマルチチャネル電源管理IC(PMIC)を扱うことを選びます。PMICはプロセッサと密結合されています。多数のディスクリート部品を1つの電源ソリューションに統合し、プロセッサが要求する必要電圧を供給しながら、パワーアップ/パワーダウン・シーケンシングやシステム診断機能も提供します。電源投入とともにPMICがプロセッサ仕様に従って動作できるように、これらの設定は不揮発性メモリに保存されます。PMICを選択することで、基板全体のサイズの縮小、設計作業の簡素化、開発期間の短縮が可能になります。

 

設計の変更に対処する

それでは、プロセッサと組み合わせるPMICを選択したものの、設計の後の段階でプロジェクトの要件が変わったとします。そのため、より高電力のプロセッサを使用しなければならなくなりました。以前に選択したPMICは、技術的にはこの新しいプロセッサに必要な電力を供給できますが、デフォルトの出力電圧と起動シーケンスが合致しません。以前のPMICには、以前のプロセッサに合わせてPMICのメーカーでカスタマイズされた設定がプログラムされています。システムにメリットがあるためPMICを使った設計にまだこだわっているとしましょう。そこで直面する大きな問題が、最初に選択したプロセッサから2つ目のプロセッサに合わせてPMICを改造することです。他にも、長すぎる標準サンプル作成期間や、さらに長くなる製品リリースまでの標準スケジュールという問題もあります。

以下は、カスタマイズ設定をメーカーでPMICにプログラムする場合の一般的なワークフロー例です。

  1. 設計者は、あるPMICに興味があるが、カスタマイズが必要である
  2. 設計者は、PMICのメーカーと一緒に、出力電圧や、パワーアップ/パワーダウン・シーケンシング、またはその他の特別なデバイス機能といったPMICのデフォルト設定を確定する。期間:約1週間
  3. PMICのメーカーは、出荷時プログラム可能なPMICのサンプルのプログラミングを行う。期間:約2週間~ 4週間
  4. PMICのメーカーは、プログラミングされたサンプルを設計者のところへ発送する。期間:約3日
  5. 設計者は、新しく出荷時プログラミングされたPMIC設定を評価し、その設定がシステム要件を満たしているか確認する。期間:約1、2週間
  6. 設計者のシステム要件が複数あったり、プロセッサの要件が変わった場合は、必要に応じてステップ2~5を繰り返す

それぞれのステップにかかる時間はメーカーにより異なりますが、話し合いの応対時間、サンプルのプログラミングの時間、PMIC材料の入手状況、さらには配送時間を考慮すると、カスタマイズ設定を出荷時プログラミングするPMICの場合、サンプル作成にかかる時間は5週間から8週間、またはそれ以上になるかもしれません。

DIYの道を選ぶ

 

プロトタイプの作成段階で、新しいプロセッサに合わせてユーザー自身がPMICを再プログラミングできたとしたらどうでしょうか。ユーザー・プログラマブルPMICの場合、デフォルト設定(通常はブランク)で販売されるため、出荷時プログラミングの開発プロセスがなくなります。ユーザー・プログラマブルPMICを使用すれば、ユーザーによるプログラミングで新しいプロセッサの電力要件を満たすことができるため、開発プロセスが簡素化されます。

出荷時プログラミングPMICと同じく、ユーザー・プログラマブルPMICには、最終的な設計の面積削減、コスト削減、そして簡素化という面でメリットがあります。ユーザー・プログラマブルPMICでは、出荷時プログラミングPMICにつきものの問題も解消され、サンプル作成や製品のリリースまでの期間が大幅に短縮されます。

出荷時プログラミングPMICでのサンプル作成プロセスとは逆に、ユーザー・プログラマブルPMICのサンプル作成はずっと迅速で単純です。ソケット式プログラミング基板のようなサンプル・ツールキットとPMICのサンプルを利用して、ユーザー・プログラマブルPMICを簡単にプログラムできます。

以下は、ユーザーが設定をカスタマイズするとして、PMICをプログラムする場合の標準的なワークフロー例です。

  1. 設計者は、あるPMICに興味があるが、カスタマイズが必要である
  2. 設計者は、ソケット式プログラミング基板とユーザー・プログラマブルPMICのサンプルを注文する。期間:約3日
  3. 設計者は、適切な付属トレーニング資料を参照し、ユーザー・プログラマブルPMICのサンプルをプログラムするが、かかる時間はわずか数分である。出力電圧、パワーアップ/パワーダウン・シーケンシング、またはその他のデバイス機能といった設定がプログラム可能である
  4. 設計者は、新しくプログラムされたサンプルを評価する

再利用性の活用

ユーザー・プログラマブルPMICには他にも、別のプラットフォームにPMICを再利用できるというメリットがあります。

あるプロセッサに対応したPMIC電源設計が完了しているとしましょう。次のプロジェクトではシステムを新たに設計する必要があり、プロセッサも別のものを選択します。この2つのプロジェクトでカスタマイズ済みのPMICを使用して設計するとしたら、まったく異なる2つのPMICを使用するか、同じPMICを2通りにカスタマイズして設計を行うことになるでしょう。

2つの別個のPMICを使用して設計するということは、新しいデバイスの機能を短期間で学ばなければならないだけでなく、その前のPMICの設計プロセスで得た知識を活かせません。同じPMICを2通りにカスタマイズしたもので設計する場合でも、プロトタイプ開発の改善による恩恵を受けられません。

カスタム・オプション、または特に大量注文向けと考えられがちですが、現在のPMICはより幅広く利用できるようになっています。設定済みのPMICを、ほとんど設計作業を行わずにすぐに目的のアプリケーションに実装することもできますが、設計の途中で要件が変わると何らかの問題に直面するでしょう。

ユーザー・プログラマブルPMICならば、プロジェクトそれぞれの電源要件をPMICが満たすことができれば、同じPMICを複数のプロジェクトに再利用することが可能になり、その上、迅速にプロトタイプ作成が進むことで、リリースまでの期間が短縮されるでしょう。

著者情報
Andrew Goodson(プロダクト・マーケティング・エンジニア, Texas Instruments)

※2021年6月29日 EDN Japan掲載のテキサス・インスツルメンツ寄稿記事を転載
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