TIのPower Stage Designerはさまざまな電源トポロジの電圧と電流を計算するツールです。この分野に携わる電気 / 電子エンジニアは10年以上にわたってこの優れたツールを活用してきました。すべての計算をリアルタイムで実行でき、直接のフィードバックが得られるため、簡単に新しい電源設計を開始できるツールであると筆者は確信しています。

Power Stage Designerの最新バージョンは、既存の機能セットに加え、1つの新しいトポロジと、2つの新しい設計機能を採用しました。その結果、電源開発において、設計期間をいっそう短縮しやすくなります。

この新しいツールが搭載しているのは、FET(電界効果トランジスタ) 損失カリキュレータ、並列接続コンデンサ向けのカレント シェア カリキュレータ、AC/DCバルク コンデンサ カリキュレータ、整流器でのリンギングを抑えるための RC (抵抗とコンデンサ) スナバ カリキュレータ、フライバック コンバータ向けのRCD(抵抗、コンデンサ、ダイオード) スナバ カリキュレータ、出力電圧の抵抗デバイダ カリキュレータ、アナログとデジタルそれぞれの出力電圧ダイナミック スケーリング カリキュレータ、ユニット コンバータ (単位変換機能)、ループ補償向けのボード線図プロット ツール、負荷ステップ カリキュレータ、フィルタ デザイナです。以下では、これら13の機能をそれぞれ詳細に紹介します。

その1FET損失カリキュレータ

このツールを使用すると、メイン スイッチまたは同期整流器として動作するFETを選定する際に、多様な製品を容易に比較できます。トポロジ ウィンドウを選択すると、電流の最小値、最大値と RMS(2乗平均平方根、実効値)、FETのVDS(ドレイン-ソース間電圧)、スイッチング周波数が計算され、表示されます。また、整流コンバータで、メイン スイッチおよび同期整流器に対して適切なMOSFET を選定した後その合計損失を評価する際にも、このツールは役に立ちます。図1に、FET損失カリキュレータ ウィンドウを示します。

1FET損失カリキュレータ ウィンドウ

その2:カレント シェア カリキュレータ

パワー コンバータの入力側または出力側に種類の異なる複数のコンデンサを接続する場合、各コンデンサのインピーダンスに応じて、コンデンサに流れるRMS電流の大きさは異なります。Power Stage Designerを使用すると、1次高調波のインピーダンス モデルに基づき、最大3個の並列コンデンサの電流ストレスを推定することができます。

その3AC/DCバルク コンデンサ カリキュレータ

AC/DCコンバータは通常、入力整流器の背後に1個のバルク コンデンサを配置し、出力段とパワー マネージメント コントローラに対して、疑似的な定入力電圧を供給します。Power Stage Designerは、さまざまな入力パラメータに基づいてバルク静電容量の推奨値を表示します。

その4:整流器向けのRCスナバ カリキュレータ

電磁干渉(EMI)試験に合格する必要がある場合、整流器で生じるリンギングが電源の大きな問題になることがあります。この問題には複数の対処方法がありますが、RCスナバ ネットワークを実装すると、PCB(プリント基板) レイアウトを再設計しなくても簡単に解決できる場合があります。Power Stage Designerは、RCスナバ回路を設計する際に出発点となる値を容易に決定できます。

その5:フライバック コンバータ向けのRCDスナバ カリキュレータ

トランスの漏れインダクタンスのような寄生成分により、フライバック コンバータのスイッチング ノードで電圧オーバーシュートとリンギングが発生する可能性があります。リンギングを低減し、オーバーシュートを抑えるための最も簡単な方法は、フライバック コンバータの 1次側インダクタンスに対して並列にRCDスナバ回路を実装することです。Power Stage Designerは、スナバ回路の抵抗とコンデンサの開始値を選択に役立ちます。

その6:出力電圧の抵抗デバイダ カリキュレータ

出力電圧、リファレンス電圧、ハイサイドとローサイドの抵抗に基づき、公差も含めて、電源の出力電圧の帰還デバイダを簡単に計算できます。

その7:アナログ出力電圧ダイナミック スケーリング カリキュレータ

アプリケーションによっては、特定の出力電圧範囲内に収まるように、パワー コンバータの出力電圧を調整する必要があります。出力電圧の抵抗デバイダに対して第3の抵抗を追加し、可変アナログ出力電圧を供給する方法で、この要件を達成することができます。出力電圧範囲、最大の調整電圧、リファレンス電圧、上側のフィードバック抵抗を設計者が選択すると、Power Stage Designerはそれらに基づいて必要な抵抗値を計算します。

その8:デジタル出力電圧ダイナミック スケーリング カリキュレータ

ローサイド帰還抵抗に対し、抵抗と信号MOSFETの複数の組み合わせを並列に接続する方法でも、電源の出力電圧を調整可能です。マイコンを使用してMOSFETのイネーブルとディスエーブル (オンとオフ) を切り替えると、電源に対して複数の出力電圧を「プログラム」するのと同様の効果が得られます。Power Stage Designerは、帰還回路の抵抗値の選択に役立ちます。

その9:ユニット コンバータ (単位変換機能)

Power Stage Designerには、さまざまな電源パラメータの変換に役立ち、手軽に利用できるツールがあります。たとえば、ゲインを係数に、またはヤード ポンド法をISO単位 (メートル法) に、変換することができます。

その10:ループ カリキュレータ

ループ カリキュレータは、開ループと閉ループの伝達関数に関するボード線図を表示します。対象になるのは、電圧モード制御の降圧トポロジと、5種類の電流モード制御トポロジ (降圧、昇圧、反転型昇降圧、フォワード、フライバック) です。閉ループを形成するために、5種類の補償回路を使用できます。図2 に、Power Stage Designerのループ カリキュレータ ウィンドウを示します。

2Power Stage Designerのループ カリキュレータ ウィンドウ

その11:負荷ステップ カリキュレータ

負荷ステップ カリキュレータを使用すると、電圧モード制御と電流モード制御のコンバータが出力電圧レギュレーションの要件内にとどまるために必要な最小出力静電容量を決定できます。内部補償回路を搭載しているデバイスに対してこのツールを使用する場合、注意が必要です。その種のデバイスを使用する場合、外部部品の選定に関する自由度が限定されるからです。

その12:フィルタ デザイナ

電源で適切な減衰を実現する差動モードπ(パイ) 型フィルタを設計する際に、フィルタ デザイナが役立ちます。このツールは、フィルタと減衰回路のボード線図に加え、減衰なしの場合と減衰ありの場合のフィルタ インピーダンスをグラフで表示することができます。この情報を参照すると、設計者が選定した減衰部品を使用して、フィルタが信号の十分な減衰と安定性を達成できているかどうかを同時に判断することができます。フィルタ デザイナは非常に良好な出発点を提示できますが、完成したPCBでEMI仕様を満たす際には、PCBのレイアウトや部品の寄生成分などの要因がフィルタの最終的な性能に大きな影響を及ぼす可能性があります。

その13:新しいトポロジ

  • TIのPower Stage Designerツールは、4つの最新トポロジである直列コンデンサ降圧コンバータを含め、合計21種類のトポロジをサポート
  • 疑似共振 / 周波数変調フライバック コンバータ
  • LLC (インダクタ-インダクタ-コンデンサ) ハーフブリッジ コンバータ

LLC (インダクタ-インダクタ-コンデンサ) フルブリッジ コンバータは、図3をご参照ください。

3LLC フルブリッジ コンバータのトポロジ ウィンドウ

Power Stage Designerを活用すると、電源設計者の業務がある程度簡素化されます。

この新しいツールボックスの数式や仮定については、『Power Stage Designerユーザーズ ガイド』をご覧ください。

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