産業用アプリケーションでのシングル・ボード・コンピュータは、かつてはヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)を処理するためのロジック・コントローラとしてのみ利用され、各種の制御機能やネットワーク通信を提供していました。現在、シングル・ボード・コンピュータは、産業用ロボット、マシン・ビジョン、ファクトリ・オートメーションなどで使用される複雑なシステムの頭脳として機能しています。

必要な処理を実現するために、最新世代のシングル・ボード・コンピュータは、16コアの中央処理装置(CPU)、256GBのDDR 4 メモリ、複数の10ギガビット Ethernet およびUSBポート、デジタルI/O、シリアルATAインターフェイスを搭載しています。次世代のシステムには、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、グラフィックス処理装置(GPU)、特定用途向け集積回路(ASIC)も搭載され、人工知能や機械学習アルゴリズムを使って音声制御、物体認識、予知保全、プロセス最適化などを実現できるようになります。

このような処理能力のすべてが、データセンター内で涼しく快適に動いているわけではありません。CPUは、製造ラインや化学処理施設などの厳しい環境で毎日24時間稼働し続ける必要があります。シングル・ボード・コンピュータの処理要件が増加し、厳しい環境での高信頼性も求められることで、電力管理に新たな課題が生まれています。高性能シングル・ボード・コンピュータの消費電力は、簡単に25W以上まで達する場合があります。空気による冷却が全く、またはほとんどない場合、動作時の周囲温度は85˚Cに達します。フォーム・ファクタの削減のために多層プリント基板が求められることで、さらに熱的なストレスが高まり、ノイズ耐性が低下します。したがって、選択する電源ソリューションは、熱負荷をそれ以上悪化させないようなものでなければなりません。

幸いなことに、半導体プロセスとパッケージ技術の進歩により、高性能の産業用シングル・ボード・コンピュータの電力管理ニーズに対応することが可能になっています。厳しい環境で動作する高性能処理アプリケーションのための電源ソリューションを設計する際には、信頼性を高め、システム・コストを削減するために、放熱、放射ノイズ、ソリューション・サイズを最小限に抑えられるコンバータが必要となります。図1は、ロボット・システム制御用の高性能CPU基板のブロック図です。

1:ロボット・システム制御用の高性能CPU基板のブロック図

電力管理の課題

ファクトリ・オートメーションやファクトリ制御、ロボット、モーター・ドライブなどの産業用アプリケーションでは、CPU基板のようなシステム内の部品に電源を供給するために、24Vバスを備えた電源装置(PSU)を使用します。このPSUの出力は、さまざまな動作条件下で10V~32Vの範囲に及びます。さらに、瞬間的な過渡電圧スパイクも生じるため、最大36Vで動作し、信頼性に影響を与えずに過渡電圧を処理できるDC/DCコンバータが必要です。

高性能CPUおよびロジック回路は通常、5Vまたは3.3Vで動作し、20W~30Wの電力を消費します。検討できるコンバータの1つに、TIの『LM61460』があります。このコンバータは、公称24Vの入力をロジック・レベルの電源電圧に変換し、3.0V~36Vの入力電圧と42Vの過渡電圧に対応します。

熱に関する課題

熱は、あらゆる高性能コンピューティング・アプリケーションで大きな問題の1つとなります。電力管理ソリューションがシステムの熱動作範囲を劣化させることはできません。図2に、『LM61460』の標準効率曲線を示します。全負荷で93%を超えるピーク効率により、DC/DCコンバータからの発熱が劇的に低下します。

2LM61460』の効率グラフ

図3は、全負荷条件で動作中の『LM61460』のサーマル・イメージを示しています。PCBと周囲間の熱係数の測定値は19.7˚C/Wで、DC/DCソリューションによるPCBの温度上昇が低くなっています。高い変換効率により、対流による熱が最小限に抑えられます。

3LM61460のサーマル・イメージ、全負荷で37˚Cの温度上昇、PCBと周囲間の熱係数は19.7˚C/W

電磁干渉とノイズに関する課題

高性能デジタル・システムは、ノイズに敏感です。DC/DCスイッチング電源は、敏感なデータ・ラインに結合する大きなノイズ源となり、エラーを引き起こす可能性があります。これは、スイッチ・ノードの高い過渡電圧によって高調波が生じ、システム全体に放射されるためです。これに対処するには、ノイズ最小化機能を持つコンバータを選択します。

LM61460』は、設計エンジニアがスイッチ・ノードのスルー・レートを制御できるようにすることで、コンパクトなシステムに混乱を引き起こす放射および伝導ノイズを最小限に抑えるのに役立ちます。スルー・レート制御によってスイッチング波形の高調波成分が減少し、存在する高調波のエネルギーが低下します。図4に、RBOOTを使用してドライブ強度を制御するスルー・レート制御機能を示します。

4RBOOTを使用してドライブ強度を制御するスルー・レート制御機能

今日のファクトリ・オートメーション/制御システムの処理要件を満たすように高性能CPU基板を設計することは、難しい作業です。高度な処理能力がより大きな出力電力を必要とする一方で、電力の増加はより効率の高い電源ソリューションの必要性を高めます。熱および電磁干渉の問題は、機能設計が失敗し、設計者を製図板へと立ち戻らせる原因となります。このような問題を避けるために、『LM61460』のような高VINで低ノイズのDC/DCコンバータの使用を検討してください。

参考情報

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年2月28日)より翻訳転載されました。
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