市場には多種多様なレギュレータが出回っているため、適切なDC/DCレギュレータを選択しようとして苦労する場合があります。車載アプリケーションの大半はバッテリで動作するため、負荷範囲の全体にわたって高い効率が求められます。とはいえ、多くの産業用アプリケーションで必要とされるのは高負荷時の優れた効率であり、軽負荷時の効率はそれほど重要ではありません。そのため、DC/DCレギュレータでの損失を把握することが重要になります。DC/DCコンバータのデータシートで効率曲線を確認すると、いくつかの疑問が生じます。たとえば「軽負荷時の効率はなぜ低いのか?」、「重負荷時に効率が低下するのはなぜか?」といった疑問です。このブログ・シリーズでは、SIMPLE SWITCHER® LM 2673 3A降圧型電圧レギュレータを例として使用し、システム効率をさまざまな部品での損失へと分解することを行ってみます。

図1に、評価モジュール(EVM)の回路図を示します。

図1: デザイン回路図

ゲート電荷とIC損失

標準的な非同期降圧レギュレータ、たとえばLM 2673などで電力を消費する部品は、IC自体と、インダクタ、キャッチ・ダイオードです。入力および出力コンデンサと、それらの等価直列抵抗(ESR)を流れる2乗平均平方根(RMS)電流は非常に小さいため、これらの部品での損失は無視できます。

すべてのMOSFETには、その構造から端子間にいくつかの寄生容量が存在します。これらは、図2に示すように、ゲート-ドレイン間容量(CGD)、ゲート-ソース間容量(CGS)、ドレイン容量(CDS)です。容量値はMOSFETのサイズ、製法などのプロセス・パラメータによって異なりますが、遷移時間が発生しない理想的なMOSFETとは異なり、これらの寄生容量があると、図3に示すように有限のスイッチング時間が生じます。

図2: MOSFET寄生容量

図3に示す有限のスイッチング時間は、入力容量(CISS)の充電と放電によるものです。入力容量は、基本的にはCGSとミラー容量(CGD)を加算したもので、ゲート電荷(QG)は、ゲート-ソース間電荷(QGS)とゲート-ドレイン間電荷(QGD)を加算したものです。MOSFETのゲート電荷は、MOSFETを完全にオンにするために必要な電荷です。 

図3: ゲート電荷とミラー・プラトー

MOSFETドライバは電流(ICC)を供給しますが、この電流は次の式1を使って見積もることができます。

ここで、FSWはDC/DCレギュレータのスイッチング周波数です。

ハイサイドMOSFETを内蔵したLM 2673のようなコンバータの場合、データシートにQGなどのパラメータは記載されていません。そのため実験によってICCを見積もる必要があります。デバイスをイネーブルにして負荷を切り離した状態で、入力電流を測定します。負荷が接続されていない状態での、この入力電流の測定は、基本的にはICC電流の測定となります。電流ICCは、動作時静止電流とも呼ばれています。詳細については、「その他のリソース」セクションのリンクを参照してください。

TIのWEBENCH® Power Designerソフトウェアを利用すると、さらに正確な計算ができます。WEBENCH Power Designerは、すべての内部MOSFETパラメータについての情報を備えているため、損失の計算時にそれらのパラメータを考慮することができます。

式1からわかるように、電流はスイッチング周波数(FSW)に直接比例します。この電流はMOSFETドライバから供給されるので、ドライバでは損失が発生します。ドライバ電圧(VCC)は、内部の低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)によって設定されます。ドライバでの損失は、次の式2のように表されます。

この電流はDC/DCレギュレータに内蔵されたLDOによって供給されるので、LDOでも同様に電力消費が発生します。この電力消費は、次の式3のように表されます。

式2と式3をまとめると、LDOとドライバの合計消費電力が得られます(式4)。

この結果、入力電圧が上がると、損失も増加します。また、ゲート電荷はスイッチング損失に直接影響します。内部MOSFETに大きな寄生容量があると、結果的にゲート電荷が大きくなり、スイッチの遷移にかかる時間も少し長くなります。これが、スイッチング損失の増加へとつながります。

このシリーズの次の回では、ゲート電荷がMOSFETでのスイッチング損失にどのように関連しているか、この損失によって軽負荷時の効率がどのように変化するか、合計損失がDC/DCレギュレータの導電損失と全体的な効率にどのように影響するかについて説明します。

その他のリソース

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/powerhouse/archive/2016/04/18/dc-dc-converter-datasheets-system-efficiency-demystified

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