人工衛星や宇宙探査が進化するにつれて、業界ではリアルタイム処理を目的としたオンボード コンピューティング能力の増加が続いています。その結果、ポイント オブ ロード電源システムの要件も進化しており、より高いレベルの電力と性能、および効率の向上に加えて、ボード面積の節減や高信頼性のニーズという課題への対応も求められています。

 

FPGA(フィールド プログラマブル ゲート アレイ)、データ コンバータ、アナログ回路など、多くの宇宙グレード サブシステムにとって、耐放射線特性の低ドロップアウト レギュレータ(LDO )は引き続き重要な電力素子の地位を占めています。性能を発揮するうえでクリーンな入力を必要とするコンポーネントに対して、安定的、低ノイズ、低リップルの電力を供給するには、LDOが役に立ちます。

 

市場では非常に多くのLDOが入手できますが、その中で、設計中のサブシステムに適した耐放射線特性デバイスをどのように選定すればよいでしょうか。

 

ノイズの最小化

高性能のクロック、データ コンバータ、デジタル信号プロセッサ、アナログ コンポーネントに対して、クリーンな低ノイズのレールを供給するには、LDO回路が生成する内部ノイズを最小限に抑える必要があります。内部で発生した 1/fノイズをフィルタで除去するのは容易ではありません。そのため、固有の低ノイズ特性を達成しているLDOを探すことになります。多くの場合、周波数が低いほどノイズが大きく、しかもフィルタで除去するのが困難です。TPS7H1111-SPは、1/fノイズのレベルを最小クラスに抑えた製品の1つであり、ノイズのピークは10Hz時の約100nV/Hzです。図1に、周波数と対比したノイズ スペクトル密度を示します。

1TIの宇宙グレードLDOのノイズ比較

PSRR

スイッチング電源など上流に位置する他のコンポーネントから流入するノイズを、LDOがどの程度クリーンアップつまり除去できるかを測定した値が電源除去比(PSRR) です。ハイエンドの A/Dコンバータ(ADC)の場合、ビット誤差を最小化できるように、入力電源ノイズに関する要件は厳格さを増し続けています。高周波領域で高いPSRRを達成するのは困難です。周波数が高くなるほど、制御ループはより高速に応答する必要があるからです。効果的なPSRRを達成できるように、多くの場合はノイズをフィルタで除去するための外部コンポーネントを使用する必要がありますが、その場合、ソリューション サイズが増加します。サイズと重量が人工衛星の打ち上げコストに直結するため、宇宙アプリケーションにとっては課題となっています。

 

加えて、スイッチングによる高調波が原因で、この周波数を上回る領域でもPSRRが重要です。PSRRが良好な製品をお探しの場合、TPS7H1111-SP LDOは性能上の明確な利点を提供します。特に高周波領域で、1MHz時に70dBPSRRを達成します (2を参照)

2TIの耐放射線特性LDOPSRR比較

他の耐放射線特性LDOと比較して、TPS7H1111-SPは、低い周波数帯では他のLDOと同等または多少良好なPSRR特性ですが、ずっと高い周波数帯では顕著な改善を示しています。上流のスイッチング レギュレータを動作させるスイッチング周波数が上昇を続ける中で、高周波帯での改善は設計者にとって特に重要です (3を参照)

3:業界標準の耐放射線特性LDOPSRR特性

TPS7H1111-SPの採用でPSRR特性が向上すると、ディスクリート フィルタが不要になるため、ソリューション全体のサイズと重量を低減しやすくなります。

 

4に、許容水準のPSRRを達成するために必要な追加のディスクリート部品を配置した、TPS7H1101A-SPのレイアウト例を示します。TPS7H1111-SPによる性能向上を通じて、PSRRを改善し、ソリューション サイズを約40%削減することができます。

4TPS7H1111-SP を採用した場合のフィルタ サイズの削減

LDO の他の重要な特長

PSRRとノイズ以外にも、人工衛星の性能と効率に影響を及ぼす設計上の他の検討事項が存在します。

 

ソーラー パネルからは一定量の電力しか供給されないため、宇宙では電力は限りあるリソースです。イネーブル機能を活用すると、特定の時点でLDOをオンにするかオフにするかを設計者が指定できます。これは、電力バジェットの全体的な節減に寄与します。イネーブル ピンはパワーアップ シーケンシングの目的にも重要であり、より新しい世代のFPGAほど重要性が増します。

 

最小ドロップアウト電圧の近くで動作させると、電力効率をさらに向上させることができます。LDOのドロップアウト電圧とは、LDOが出力電圧の安定化を停止する点での、LDOの入力電圧と出力電圧の差のことです。ドロップアウト電圧の仕様が小さいほど、動作電圧の差は小さくなります。その結果、消費電力と放熱量が減少し、固有の最大効率が高まります。TPS7A4501-SPTPS7H1101A-SPTPS7H1111-SP はいずれも、かなり小さいドロップアウト電圧に対応できます。ただし、PSRR特性に制約が課されないように、負荷条件、出力容量、ヘッドルームについて考慮することも重要です。

設計時に直面する課題は電力だけではありません。AMD ( Xilinx) KU060や、Versal XQR VC1902 など、より新しい宇宙グレードの各種FPGAは、性能最適化のために、各レールに対して厳格な入力電圧公差要件を課しています。厳格な精度要件に適合できるように、放射線被ばく下や寿命終了条件下での精度を考慮する必要があります。TPS7H1111-SPは、ライン、負荷、温度、放射線に対して、±1.5%の精度を達成しています。

 

信頼性の高い電源レールを提供することで、(特に起動時に) 下流にあるコンポーネントの損傷を防止するのに役立ちます。ソフト スタート機能は、電圧が過度に急激に立ち上がることを防止します。急激な上昇は、電流オーバーシュート、または過剰なピーク突入電流を招く可能性があります。また、ソフト スタート機能は、上流の電源からの過電流を防止することで、許容できないレベルの電圧降下が生じるのを防ぎます。

 

TPS7H1111-SPではディスクリート フィルタが不要なため、電力密度の向上に役立ちます。それ以外にも、LDOに追加する外部部品点数の制限や、IC自体のフットプリントの縮小など、ソリューション サイズを小型化する方法が他にもいくつかあります。TITPS7A4501-SPは、パッケージ サイズ、レイアウト、ソリューション サイズの点で、業界最小クラスを達成している耐放射線特性LDO1つです。また、地球低軌道ミッション向けに宇宙用強化プラスチック (-SEP) を採用してTIが新しくリリースした製品は、フットプリント サイズを30% 50%節減し、電力密度の向上に役立ちます。TPS73801-SEPTPS7H1111-SEPは、これらの耐放射線特性プラスチック ソリューションが、サイズ、重量、消費電力の改善に引き続きどのように貢献するかを示す最新の例です。

 

まとめ

宇宙でノイズに敏感なレールへ電力を供給することは、効率、信頼性、性能、サイズ、重量に関するトレードオフを伴う動的な課題です。すべてのアプリケーションが高性能 LDO を必要とするわけではありません。比較的性能の低いアナログ回路を設計している場合や、公差要件がそれほど厳格ではない以前のFPGAを採用している場合には、小型かつ低コストのソリューションを使用しながら、許容水準の性能を維持することができます。

 

参考情報

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