高インピーダンス入力を受け取るマルチチャネル・アナログ入力モジュールの設計には独自の���題があります。この課題に対して、アナログ入力モジュールの設計をシンプルにするTIの超低リーク電流アナログ・マルチプレクサ『MUX36S08』と『MUX36D04』を用いたソリューションを説明します。
プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)のメーカーで働く若手技術者が、24ビットのマルチチャネル・アナログ入力モジュールを設計していました。このモジュールの入力では、高インピーダンスのセンサから信号を受け取ります。技術者は、TIの24ビット、デルタ・シグマA/Dコンバータ『ADS125H02』、5Vの電圧リファレンス、および高精度アンプ『OPA192』を選択しました。
マルチプレクサを選ぶにあたり、TIの『MUX36D04』に加えて他社製のMUX2とMUX3という3つの候補がありました。どのマルチプレクサの仕様も似ていましたが、入力リーク電流仕様だけはそれぞれ1pA、100pA、1nAと違いがありました(25℃での標準値)。
当初は、3つとも同じように見え、入力リーク電流も無視できるくらい低い、と技術者は考え、どれを選んでも、同じようなシステム性能が得られるはずだと思ったのです。
この記事を読めば、この技術者がマルチプレクサのリーク電流を無視し続けられたかどうかがわかるでしょう。
図1は、複数のセンサ・インターフェイスを備えたデータ収集システムの標準的ブロック図です。
図1:データ収集システムの入力信号調整ユニットのブロック図
リーク電流はオフセット誤差とオフセット・ドリフト誤差の隠れた要因
リーク電流は、スイッチのオン時、オフ時の両方でDC誤差の一因となるため、重要なパラメータです。マルチプレクサのデータシートには、スイッチがオンまたはオフのときにソース・ピン(IS)やドレイン・ピン(ID)を流れるリーク電流など、リーク電流に関連した仕様が多数含まれています。図2に、アナログ・スイッチの概略モデルを示します。
図2:スイッチがオンのときの簡略化した小信号モデル
図2の出力電圧VOUTは、通常はオペアンプの非反転端子に接続されますが、これは高インピーダンスを呈します。そこで、単純化するために、技術者は負荷抵抗RLの影響を無視することにしました。ROは、スイッチのオン抵抗です。
スイッチがオンのときは、リーク電流に起因する電圧誤差が式1で求められます。
スイッチがオフのときは、リーク電流はそれぞれの端子(ドレインまたはソース)を流れ、出力でオフセット誤差を発生させます。
図3:スイッチがオフのときの簡略化した小信号モデル
リーク電流は、温度によっても増加します。すべてのデータシートに、温度に対するリーク電流の標準的プロットが含まれているはずです。リーク電流が非常に少量でも、入力インピーダンスが高いセンサを扱う際には考慮すべき重要なパラメータになります。では、このパラメータがシステム性能にどう影響するかを見ていきましょう。
ピコアンペアとナノアンペアのリーク電流はどちらも同じように見えるが、実際はそうではない
PLCシステムのアナロ入力モジュールは、例えばpHセンサ、光センサ、湿度センサ、加速度センサ、化学物質センサなど、高インピーダンスのセンサをスイッチングすることがよくあります。これらのセンサはすべて高い入力インピーダンスを呈し、数百キロオームから数ギガオームまでになることもあります。代表的な例として光電センサを取り上げます(図4参照)。
図4:光電センサの概略モデル
図4のシャント抵抗Rshは数百キロオームから数ギガオームの間で変動し、温度と逆相関関係があります。シャント容量は数ピコファラッド程度と値が小さいため、図4には示されていません。
リーク電流がシステムの精度に与える影響
単純化するために、センサのインピーダンスRshを1MΩと仮定します。式2で、5Vリファレンスの24ビット・システムの場合の1最下位ビット(LSB)に対応する最小分解能または電圧を求めます。
VLSB = [5 / 224] = ~0.30 µV
表1に示す通り、技術者が選択できるマルチプレクサは『MUX36D04』、MUX2、MUX3の3つがありました。その違いが(25℃/85℃)時のリーク電流のみだったことも思い出してください。それぞれのマルチプレクサのリーク電流が入力インピーダンスを流れることで、オフセット誤差が生じ、システム全体の精度に影響します。表1は、マルチプレクサがシステムの精度に与える影響をまとめたものです。
マルチプレクサ |
マルチプレクサのリーク電流 (25⁰C/85⁰C) |
オフセット誤差 (25⁰C/85⁰C) (ILEAKAGE X RSH) |
LSBで表した誤差 (25⁰C/85⁰C) |
『MUX36D04』 |
1pA / 40pA |
1µV / 40µV |
3.33LSB / 133.33LSB |
MUX2 |
100pA / 500pA |
100µV / 500µV |
333.33LSB / 1666.67LSB |
MUX3 |
1nA / 5nA |
1mV / 5mV |
約3333LSB / 約16,667LSB(大きすぎるので考慮に値しない) |
表1:リーク電流と、LSBで表したオフセット誤差との関係
ほとんどのセンサの出力電圧は低いため、入力段に起因する余分なオフセットにより、『ADC125H02』の可能な最大フルスケール電圧範囲が制限される場合があります。表1を見れば、高精度データ収集システムでは、わずか数百ピコアンペアの入力リーク電流が測定精度に大きく影響することは明らかです。リーク電流は温度により変化し、表1には25℃および85℃時のオフセット誤差変動を示しています。光電センサのインピーダンスは輝度や周囲温度によっても変化するため、これはオフセット誤差だけでなく、直線性誤差の要因にもなります。
こうして、技術者はリーク電流を無視し続けることはできなくなりました。低リーク電流のマルチプレクサを選ばなければなりません。
高インピーダンス入力を受け取るマルチチャネル・アナログ入力モジュールの設計には、それ独自の課題があります。TIの超低リーク電流アナログ・マルチプレクサ『MUX36S08』と『MUX36D04』を用いると、オフセット誤差の校正が不要になると同時にドリフト誤差と直線性誤差が大幅に軽減されるので、アナログ入力モジュールの設計が単純になります。『MUX36S08』と『MUX36D04』のリーク電流は25℃で1pAと非常に低くなっています。図5に、MUX36S08で温度によってリーク電流が変動する様子を示します。(-40℃~125℃にわたる詳細なプロットは、『MUX36S08』のデータシートを参照してください。)
図5:『MUX36S08』での温度によるリーク電流(ID(ON))の変動
最終的に、技術者はリーク電流を無視し続けることはできず、TIの低リーク電流マルチプレクサを選択する必要がありました。選択肢となった『MUX36S08』と『MUX36D04』は、低リーク電流という要件を満たす上に、低容量、低電荷注入、レール・ツー・レール動作、および低消費電力でもあります。
参考情報
+リファレンス・デザイン
+「TIPD151 :16 ビット、400KSPS、4 チャネル多重データ取得システム、高入力電圧、低歪用」
+「TIDA-00760:PLC 向けマルチプレクス・シングル・チャネル DAC を搭載したマルチチャネル・アナログ出力モジュール」
+データシート『MUX36S08』と 『MUX36D04』.
※上記の記事はこちらの技術記事(2016年2月19日)より翻訳転載されました。
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