TIの革新的な技術者たちが世界初のオンチップ・ミリ波レーダー・システムを開発したことで、TIの顧客企業はレーダー・センシング・テクノロジをさまざまなアプリケーションに取り入れることができるようになりました。このようなアプリケーションは道路上や工場内での安全性を支えるだけでなく、消防士が煙の向こうにいる人の命を救う助けにもなるでしょう。

壁や煙で見えなくても、意識を失って動けなくなっている人を見つけるために、消防士のヘルメットにも取り付けられる低コストのレーダー・センサをイメージしてみてください。  

TIの技術者が生み出してきたミリ波(mmWave)レーダー・センサにより、将来的には壁や障害物を「透視」したり、3次元画像処理により認識した情報に応じて使用者に警報音で知らせることができるようになるかもしれません。

TIのミリ波(mmWave)レーダー・センサの詳細をご確認ください。

 

TIのミリ波テクノロジを開発した中核チームの技術者であるBrianはこう語ります。「ミリ波は、煙を通過し、壁をすり抜けて、その向こう側にある物を良く見ることができます。このアプリケーションで難しいのは、救助者自身が動いている中で、動けない人の呼吸の動きを検知しようとするところです。ミリ波テクノロジは、その多くのアプリケーションと同じく課題の克服に向けて発展を続け、救命に結びつく多様な用途に使われることになるでしょう」。

同様のテクノロジは、自動車のバンパーの裏に設置され、路上の障害物を検知してドライバーに警告を出すものとして、すでにTIの顧客企業に使われています。TIのミリ波テクノロジは、車内に置き去りにされた子供を検知して保護者に警告を通知するアプリケーションや、高齢者の転倒を検知して介護者に知らせるアプリケーション、込み入った工場内をロボットが通行できるようにするアプリケーションなどにも導入が検討されています。

2009年に小規模な研究開発チームがTIのミリ波テクノロジに取り組み始めたときには、このテクノロジによって可能になるであろう応用先の多さに気づいていませんでした。このテクノロジが当初目指していたのは、低価格帯の車にも搭載できる低コストのレーダー・センサを作ることでした。このテクノロジができるまでは、レーダー検知は超高級車にしか使用されていなかったのです。

レーダーとその仕組み

電波探知測距(後に頭文字を取ってRADARと呼ばれるようになった)の構想は、敵の侵攻を知るために第二次世界大戦中に生まれ、それ以後広く使われるようになりました。いち早く軍事利用されたのに加えて、レーダー・テクノロジにより、航空や陸上の交通管制、天気予報、医療用モニタリング、さらには車の先進的安全機能が実現しました。

過去の多くのレーダー・システムは大型で高価でした。軍用アプリケーションは数百万ドルにもなり、大きさは数百フィートもありました。また、これらのアプリケーションの運用周波数は低かったため、かなり精度の低い画像しか得られませんでした。

TIのミリ波レーダー・センサは、ずっと高精度が得られる60GHzまたは77GHzで動作します。また、小型でコンパクトなTIのミリ波レーダー・センサは25セント硬貨ほどの大きさながら、物体の輪郭がわかり種別が判別できるほど詳細な画像が得られます。

ミリ波レーダーは電波を輻射することで機能します。送出された電波は、物体に反射すると戻ってきます。劣悪な環境においても、堅牢なこのテクノロジはあまり干渉を受けずに済みます。

「電波の送出時とそれが戻ってきた時の時間差に加え、どの方向から戻って来たかも測定できることで、その空間に何があるかを『見る』ことができるのです」とBrianは述べます。

車内に置き去りにされた子供を検知するシステムでは、駐車中の車の天井部分から車内に向けて電波が送出されます。車内に小さい子供がいれば、その胸部にはね返った電波によりレーダー・テクノロジが呼吸動作を検知し、中央プロセッサに伝えてドライバーに警告を通知したり、クラクションを鳴らしたり、窓ガラスを割って空気を取り入れたりします。

CMOSへの挑戦

2009年にプロジェクトが立ち上がったとき、チームはCMOS(相補型金属酸化膜半導体)テクノロジで設計するという難しい課題を引き受けました。この基礎技術により、TIのミリ波レーダーが一般大衆にも手が届きやすくなるだろうと認識していたからです。それまで非常に高価だったレーダー検知機能を2万ドルの車にも搭載できるくらい手頃なものにするには、チームにとってCMOSが唯一の手段でした。

チームはミリ波テクノロジに習熟するために、2009年から2012年にかけて超短距離通信アプリケーション用の160GHzレーダーの開発に取り組みました。

その当時、CMOSテクノロジを使ってこのようなシステムを作ったところは世界中のどこにもありませんでした。

Brianはこのように語ります。「CMOSによる車載用ミリ波デバイスの構築実現は、最も革新的なことでした。それ自体に、さまざまなデバイスや回路や試験ソリューションにわたる非常に多くのイノベーションが必要でした」。

レーダー・デバイスの競合状況も厳しかった、とBrianは振り返ります。

「TIのライバル企業は、最新の車載用レーダー・ソリューションを持っていました。そのようなソリューションはシリコン・ゲルマニウム・バイポーラ技術で作られていましたが、非常に高価で、組み込みが困難な場合があります。TIでは別のやり方を選択し、原価構成に優れ、低消費電力でありながら高性能を秘めた先進のCMOSテクノロジを使用することに専念しました」。

チームは3年かけて初期プロジェクトを完遂しました。2012年初期までに、CMOS技術のミリ波システムが構築可能であることを証明し、このテクノロジを市場展開するチャンスを探っていました。 

Brianはこう語ります。「TIが先進運転支援システムの車載用レーダーにインパクトを与えられるかを検討し、市場に変革を起こせると判断しました。CMOS技術を導入して、実際に高性能、低コスト、低消費電力を同時に実現できるだろうと」。

TIのミリ波テクノロジがさらに求めやすくなるよう情熱を注ぐ

TIは、半導体を通してより手頃な価格の電子機器を開発することで、より良い世界を創造することに情熱を注いでいます。ミリ波のような革新的技術に、TIの情熱が現れています。何十年にもわたり今日の革新的な発展の基礎を築くために尽力したTIの多数の技術者のように、ミリ波テクノロジの開発者たちも、競争に打ち勝つために大いなる情熱を持って、レーダー検知技術を中・低価格帯の車にも取り入れやすくするという目標に取り組んできました。

次回は、TIのミリ波テクノロジの発展の過程と、そのすべてを可能にしたBaher、Vijay、Brian、Srinathなどの中心的開発者について詳しくお伝えします。

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年10月29日)より翻訳転載されました。 
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