以前のブログ投稿では、高電圧からの保護を実現するためのアイソレータの使用方法について説明しました。 今回の投稿では、アイソレータの重要な性能パラメータについて説明します。 同相過渡電圧耐性(Common Mode Transient Immunity)、つまり CMTI です。
CMTI は、アイソレータを通過する信号を破損させることなく、アイソレータが 2 つのグランドの間で発生する高スルーレートの電圧過渡に対処する能力を表します。 一般的に、CMTI が大きいほど、ノイズに対して堅牢であり、さまざまな絶縁アプリケーションで優れていることを意味します。 また、CMTI が大きいアイソレータを使用すると、最終機器で大きな差別化となるアプリケーションがいくつか存在します。
太陽光エネルギー、風力エネルギー、グリッド・ストレージの各アプリケーションはインバータを使用して、発電または蓄積された DC 電力を AC 電力に変換し、次いで送電網に流します。 インバータは、マイコンで制御された IGBT(絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ)または他のパワー半導体デバイスで構成されています。 絶縁型ゲート・ドライバ、またはデジタル・アイソレータと非絶縁ゲート・ドライバとの組み合わせは、マイコンから送信された信号を、パワー・デバイスのゲート制御信号に変換します。 この結果、適切な電圧と電流によるドライブをパワー・デバイスに供給し、インバータの高電圧部分からマイコンを絶縁することができます。 図 1 に、集中型ソーラー・インバータの簡略化したブロック図を示します。
図 1: 集中型ソーラー・インバータの簡略化したブロック図
これらのアプリケーションで使用するアイソレータは、大きいグランド過渡に直面します(図 2 参照)。2 つのグランドのうち一方は、急速にスイッチングされるインバータの出力に接続されているからです。 大電力のインバータ設計では、インバータの出力はスイッチングによって数十ナノ秒のうちに最大 1,500V まで変動する可能性があります。 CMTI は、この状況で重要なパラメータになります。これらのグランド過渡が原因でアイソレータ内に生じたビット・エラーは、危険な短絡という結果を招く可能性があるからです。
図 2: インバータ出力のスイッチング・プロファイルはアイソレータにとって大きな CMTI を意味する
太陽光エネルギー、風力エネルギー、電力貯蔵用途のインバータは、より高い DC バス電圧、より短いスイッチング時間、より高いスイッチング周波数を使用し始めています。 これらの各要因は、アイソレータの CMTI 要件を引き上げています。
より高い DC バス電圧を使用すると、出力電力を大きくすると同時に、電流レベルと銅線コストを同じレベルに維持することができるので、発電されたエネルギーの単位コストを削減できます。 効率も改善されます。(より高い V が原因で)合計出力電力は増加しますが、導通損失は同じ値にとどまるからです(同じ I)。 スイッチング遷移時間が短縮されるので、インバータの効率も改善されます。 より高いスイッチング周波数を採用すると、コストと体積の大きいインダクタやトランスのような磁気製品を削減する結果につながります。 信頼性の高い SiC(シリコン・カーバイド)ベースのパワー・トランジスタが利用できるようになった結果、従来の IGBT に比べて高速なスイッチングと高い電圧を許容できるようになり、これらもインバータのスイッチング高速化と効率向上に寄与します。
したがって、CMTI の大きいアイソレータが入手可能になったこと、およびそのような製品を使用することは、大電力の太陽光エネルギー、風力エネルギー、電力貯蔵の各アプリケーションにいくつかの利点をもたらします。
TI は最近、ISO5851 と ISO5451 の各絶縁型ゲート・ドライバを発表しました。これらの製品は、100kV/μs の最小 CMTI を実現します。 また、TI は ISO78xx ファミリのデジタル・アイソレータも提供しています。これらは、 70kV/μs の最小 CMTI を実現します。 これらのアイソレータを使用すると、コストが安価で、より効率的な大出力インバータ設計を実現できます。
絶縁と CMTI について、皆様はほかにどのようなことを知りたいと考えているでしょうか。 以下にコメントを投稿し、このトピックに関して今後数か月のうちに投稿される予定の Industrial Strength ブログをぜひご覧ください。
その他のリソース
- TI の ISO5851 と ISO5451 各絶縁型ゲート・ドライバに関するデータシートをご覧ください。
- TI の次のホワイト・ペーパーをダウンロードしてください。『High-voltage reinforced isolation: Definitions and test methodologies(英語)』。
- TI の Digital Isolator Design Guide(英語)を活用して次期設計を今すぐ始めましょう。
- 絶縁に関するその他のブログ投稿をお読みください。