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ファクトリ・オートメーション機器、グリッド・インフラ・アプリケーション、モーター・ドライブ、電気自動車 (EV) など、産業用や車載用の高電圧システムでは、数百ボルトから数千ボルトの電圧が発生します。このような電圧は、人体の安全にとって大きなリスクとなり、機器の寿命を短くする要因ともなります。この記事では、信頼性の向上と同時にソリューション・サイズの小型化やコストの削減に役立つ最新の絶縁技術を活用して、これらの HV (高電圧) システムを安全に保つ方法を説明します。

絶縁方法

IC (集積回路) では、DC 電流と低周波の AC 電流をブロックしながら、電力、アナログ信号、高速デジタル信号を絶縁バリアをまたいで伝送することにより、絶縁を実現します。図 1 に、絶縁を実現する 3 種類の一般的な半導体技術を示します。光学的 (フォトカプラ)、電界を通じた信号伝送 (静電容量式)、および磁界を通じた結合 (トランス) です。

 (a)

 (b)

 (c)

図 1:半導体絶縁技術;フォトカプラ (a)、静電容量式 (b)、トランス式 (c)

TI は静電容量式絶縁技術と独自の統合型平面トランス (磁気式絶縁) を活用し、高度なパッケージングやプロセス技術と組み合わせることで、TI の幅広く多様な絶縁型 IC 製品ラインアップを通じ、信頼性、統合、性能をかなり高い水準で実現しています。

信頼性の高い絶縁技術によって高電圧設計の課題を克服
 TI のホワイト・ペーパー『高信頼性と低コストを両立させる絶縁技術により高電圧設計の様々な課題を解決』で、高電圧のガルバニック絶縁に関する一般的な課題と手法に加え、産業用と車載の各システムで高電圧絶縁を高い信頼性で達成しながらソリューション・サイズの小型化とコストの削減を実現する方法をご覧ください。

容量性絶縁

静電容量式絶縁技術は、絶縁物をまたぐ AC 信号の伝送を基礎としています。TI の静電容量式アイソレータは SiO2 誘導体を使用しています。この材質は、非常に高い誘電体強度を持ちます。SiO2 は無機物質なので、湿度や温度に対しても非常に優れた安定性を示します。さらに、多層コンデンサと多層不活性化に関する TI 独自の方法論は、高電圧特性に関する単一の層への依存性を減らし、アイソレータの品質と信頼性の向上に貢献します。TI の静電容量式技術は、最大 2kVRMS の動作電圧 (VIOWM) に対応するとともに、7.5kVRMS の絶縁電圧 (VISO) や 12.8kVPK のサージ電圧に耐える能力があります。

磁気式絶縁

磁気式絶縁は一般的に、高周波の DC/DC 電力変換を必要とするアプリケーションで使用します。IC トランス結合絶縁の利点の 1 つは、数百 mW を上回る電力を伝送できる能力であり、多くの場合、2 次側のバイアス電源が不要になります。また、高周波信号を伝送する目的で磁気式絶縁を使用することもできます。電力とデータの両方を伝送する必要があるシステムの場合、図 2 に示すように、トランスの同じ巻線コイルを使用して、電力と信号に関するニーズを満たすことができます。信号と電力両方を組み合わせて同じ統合型コイルで伝送すると、ソリューションのコストとサイズの両方を最小化できます。『TPSI3050-Q1』と『TPSI3052-Q1』は、同じトランス・チャネルを使用し、データと電力を組み合わせて伝送します。

 図 2 磁気式絶縁を使用し、絶縁バリアをまたいで信頼性の高い方法で電力と信号の両方を伝送

磁気式絶縁向けに、TI は独自のマルチチップ・モジュール・アプローチを採用しています。このアプローチは、高性能プレーナ (平面型) トランスを、絶縁型電力段や専用のコントローラ・ダイと同じパッケージに封止しています。このようなトランスを製作する際には、結合とトランスの効率を向上させるために高性能のフェライト・コアを使用するか、またはアプリケーションが控えめな電力伝送のみを必要とする場合、コストの節減と複雑さの軽減を目的として空心を使用することができます。

絶縁のニーズを信頼性の高い方法で満たしながら、ソリューション・サイズの小型化とコストの削減も実現

アプリケーションによって、必要とされる絶縁手法は異なります。EV (電気自動車) やグリッド・インフラの各アプリケーションで高電圧絶縁に TI の各種 IC を活用し、非常に高い信頼性と同時にソリューション・サイズの小型化とコスト削減を実現する方法を示すいくつかの例を見てみましょう。

EV アプリケーション

重量の軽減、トルクの増加、効率の向上、充電の高速化という特長が原動力になり、EV (電気自動車) の高電圧バッテリ・スタックは従来の 400V から 800V 水準へと上昇しており、一部の例では最大 1kV にも及びます。バッテリ管理システムトラクション・インバータは、EV サブシステムにおける 2 つの非常に重要な要素であり、乗員と自動車の安全性を確保するために、これらの 800V ドメインをシャーシから絶縁する必要があります。

図 3 に示すブロック図は、あるトラクション・インバータの例です。複数の絶縁型ゲート・ドライバを使用し、3 相の DC/AC インバータ構成で、高電圧の IGBT (絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ) または SiC (シリコン・カーバイド) のモジュールを駆動します。これらのモジュールは、IGBT または SiC のスイッチを最大 6 個パッケージに内蔵することができます。その場合、最大 6 個の絶縁トランスが必要であり、6 個の独立したゲート・ドライバ IC に電力を供給することになります。TI の『UCC14240-Q1』は、デュアル出力、中電圧の絶縁型 DC/DC パワー・モジュールです。トラクション・インバータやゲート・ドライバへのバイアス用途で高性能を実現すると同時に、外部トランスの数を減らして PCB の面積を最小化できます。

 図 3:標準的なトラクション・インバータ・システムのブロック図

加えて、BMS (バッテリ管理システム) では、高電圧バッテリの端子をサブシステムに接続する際にプリチャージ回路を使用します。5kVRMSに対応する TI の 『TPSI3050-Q1』は絶縁型スイッチ・ドライバであり、従来の機械式プリチャージ接触器 (リレー) を置き換え、より小型でより信頼性の高い半導体 (ソリッド・ステート) ソリューションを実現するための設計を採用しています。従来型の電気機械リレー (電磁リレー) ソリューションが長期的な使用で劣化するのに対し、この半導体製品は最大 5kVRMSに耐える強化絶縁と、10 倍の長さに及ぶ動作寿命を実現します。図 4 に、機械式リレーと比較して『TPSI3050-Q1』がどれくらいの面積を節減できるかを示します。

 図 4:磁気式絶縁をベースとする半導体リレー・ドライバ (『TPSI3050』) を使用してソリューション・サイズを小型化

グリッド・インフラストラクチャ・アプリケーション

グリッド・インフラ・アプリケーションにとって絶縁は必須です。まず、感電や機器の破損を招く可能性のある高電圧サージからの保護を実現します。次に、大きいグランド電位差 (ground potential difference:GPD) が関係する相互接続の状況で、不具合を招くグランド・ループを防止します。最後に、同相 (コモン・モード) 過渡現象の発生中に、データ・インテグリティを維持するのに役立ちます。

ソーラー・エネルギー機器や EV (電気自動車) チャージャは、200V ~ 1,500V の範囲内、またはそれを上回る電圧で動作することがあります。図 5 に、TI の高電圧の EV (電気自動車) 充電とソーラー・エネルギー分野の絶縁監視に適した AFE (アナログ・フロント・エンド) のリファレンス・デザインを示します。このリファレンス・デザインは、TI の高精度絶縁アンプである『AMC3330』と、絶縁型スイッチである『TPSI2140-Q1』を使用して、グリッド・インフラ・アプリケーションで絶縁抵抗の監視を行います。この半導体 (ソリッド・ステート) リレー・ソリューションには可動部品がないので、数十年にわたって高頻度で測定でき、性能は低下しません。電力と信号の両方が、『TPSI2140-Q1』内にある絶縁バリアをまたぐ形で伝送可能なので、2 次側バイアス電源を用意する必要はありません。このデバイスは低背のスモール・アウトライン IC (SOIC) パッケージで供給され、光学リレー (フォトカプラ) または機械式リレーをベースとするソリューションに比べてソリューション・サイズを最大 50% 小型化できます。

 図 5 高電圧の EV (電気自動車) 充電とソーラー・エネルギー分野の絶縁監視に適した AFE (アナログ・フロント・エンド) のブロック図

まとめ

TI はより多くの機能を絶縁技術に統合することで、EV (電気自動車) やグリッド・インフラなどの分野で安全性を維持すると同時に、設計の複雑性の軽減、ソリューション・サイズの小型化、コストの削減を実現できるようにしています。TI が静電容量式と磁気式の各絶縁技術を拡充させ、より多くのアナログ機能を追加している状況については、こちらをご覧ください。

参考情報:
+ホワイト・ペーパー:
高電圧信号絶縁の品質と信頼性の実現
+アプリケーション・ブリーフ(英語):
How to Simplify Isolated 24-V PLC Digital Input Module Designs
+トレーニング・シリーズ (「CC」アイコンのクリックで日本語字幕が選択可能) :
TI プレシジョン・ラボ – 絶縁

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2022年6月8日)より翻訳転載されました。
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