ベンチトップ試験機器で高精度のデータ収集を実現する方法


 デジタル・マルチメーター(DMM)は、あらゆるエレクトロニクス・ラボで中心的な役割を担う機器ですが、電子機器の精度が向上し続ける中で、電流、電圧、抵抗などのパラメータをすばやく正確に測定できるDMMの必要性も高まっています。そのため、DMM内のデータ収集システムを改良して、より高精度の測定を実現しようというニーズが常に存在します。データ収集システムの中核となるのが、入力信号をデジタル化してホスト・プロセッサに送信するアナログ/デジタル・コンバータ(ADC)です。

この記事では、ADCの中でDMMに関連して重要性の高い各機能の概要を示します。ここでは特に、ハンドヘルド機器ではなくベンチトップ・システムに着目しています。図1に、一般的なDMMのデータ収集システムのブロック図を示します。

 図1:DMMの入力信号調整のブロック図

DMMでは多くの異なる種類のADCアーキテクチャを使用できますが、最も一般的なものの1つが逐次比較型(SAR)ADCであり、速度、分解能、設定の柔軟性に優れています。デルタ・シグマ型ADCはより高い分解能を提供でき、パイプライン型ADCにはより高速なサンプリング・レートという利点がありますが、SAR ADCは高分解能と高速応答を両立しているため、DMMですばやく高精度な測定を実現できます。現在のSAR ADCは分解能が向上し続けており、高精度システムでもデルタ・シグマ型ADCの代替として適するようになっています。

現在、一般的にDMMでは、分解能が16ビット以上でサンプリング・レートが100kSPS(100,000サンプル/秒)以上のADCが使用されます。より高精度のDMMが求められる中、より高速で高分解能のADCのニーズも今後高まっていくでしょう。分解能が高いと精度が向上する一方で、ノイズの影響をずっと受けやすくなります。より高いレートでサンプリングし、複数の測定値の平均化(オーバーサンプリング)やデジタル・フィルタリングを行うことで、システムの性能に対するノイズの影響を軽減できます。

より高い分解能と高い速度が必要なシステムのために、TIでは、高分解能かつ高サンプリング・レートで優れたAC/DC性能を備えた、高精度SAR ADCのADS8900Bファミリを提供しています。表1に、このファミリの仕様を示します。

ADS890xB ADS891xB ADS892xB
分解能 20ビット 18ビット 16ビット
速度 最大1MSPS 最大1MSPS 最大1MSPS
積分非直線性(標準) ±1ppm ±0.5LSB ±0.5LSB
信号対ノイズ比(標準) 104.5dB 102.5dB 96.8dB
全高調波歪(標準) -125dB -125dB -125dB
パッケージ 4mm×4mm QFN 4mm×4mm QFN 4mm×4mm QFN

表1:ADS8900Bの性能

高性能ADCであることに加え、ADS8900Bには、電圧リファレンス用のオペアンプ・バッファが内蔵され、外部リファレンス・バッファと比べて2つの明確な利点があります。図2に、データ収集システムでの外部および内部リファレンス・バッファの比較を示します。

 図2:外部および内部の電圧リファレンス・バッファ

バッファを内蔵したADCで得られる1つ目の利点は、システム性能の向上です。ADCは、入力信号と比較して信号電圧を決定するために、REF5050などの高精度電圧リファレンスを必要とします。電圧リファレンスの出力電流は一般に数ミリアンペア(mA)しかないため、リファレンス・バッファを使用することで、電圧リファレンスでの降下を最小限に抑えながら、変換サイクル中にADCで必要とされる電流を供給します。リファレンス・バッファをADCと同じチップに内蔵することで、電圧リファレンスへの歪みを減らしてADCを駆動するようバッファが最適化されるため、外部バッファを使用した場合よりも高い性能でデータ収集を行えます。もう1つの利点は、ADCとバッファを一緒にパッケージングすることで、ディスクリート・ソリューションよりも占有面積が減り、システムのサイズを小さくできます。

ADS8900Bファミリは次世代のデジタル・マルチメーターの実現に役立ちますが、このSAR ADCには他にも数多くのアプリケーションがあります。

その他のリソース

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2016年12月16日)より翻訳転載されました。

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