Other Parts Discussed in Post: TMCS1100, INA301, INA226, INA228, INA232, INA253

私たちを取り巻く世界で電動化が進む状況に関連する流行語はいくつかありますが、その中でも顕著な用語の 1 つが「電流センシング」です。電流センシング技術には、高信頼性、高精度、設計しやすさという特長がありますが、仮にこのような特長がなかったとしたら、ソーラー・パネル・アレイ、電気自動車 (EV) の充電ステーション、ロボットなどに関して耳にする革新はほとんど実現できなかったでしょう。

この記事では、電動化アプリケーションの発展やそれに対処するための電流センシングの向上に伴って登場した、4 つの重要な設計トレンドについて説明します。つまり、システム電圧の高電圧化、システム保護機能の強化、遠隔測定 (テレメトリ) 監視、フォーム・ファクタの小型化です。全般的に、電流センサは 1 つの重要なパラメータである電流を電気システム内で監視し、それによってシステムは安全領域内でできるだけ効率よく動作することができます。

システム電圧の高電圧化を支援する電流センシング

効率要件が継続的に厳格さを増している中で、効率の向上を推進するために、システム電圧は上昇を続けています。オームの法則に基づき、供給する電力量が等しい場合、システム電圧が高くなるほど、負荷に供給する電流を小さくすることができます。その結果、システム内の電力損失 I2R は小さくなります。電圧が高くなるほど、システム全体で大きな電力をより効率的に伝達できます。電流が小さくなり、AC/DC または DC/DC パワー・コンバータのような段で生じる熱が減少するからです。

図 1 に示す EV チャージャは、電圧レベルが 120VAC、240VAC、230VAC (単相) または 400VAC (3 相) などである電力グリッドから電力を取り出します。標準的な EV チャージャはグリッドから取り出した AC 電力を EV のオンボード・チャージャ (OBC) に渡し、OBC はその電力を DC に変換してバッテリを充電します。

DC 高速チャージャの場合、グリッドから EV チャージャに取り出された AC 電力がチャージャ内で AC から DC に変換され、高速充電の目的で最大 920VDC の電圧がバッテリに印加されます。電流レベルを維持したまま電圧レベルを上昇させると、より多くの電力をバッテリに直接供給でき、その結果、より迅速で、より効率的な充電を行えます。

 

1EV チャージャ

電流センサは、EV チャージャ内でシステム効率の向上に役立ち、システム内の複数の場所で使用することができます。これらのセンサを AC ライン入力で使用すると、システムのフロント・エンドに流れ込む皮相電力を調整する目的で電流を監視できます。別の使用法は、システムの正極または負極どちらかのノードで、力率制御ループや 2 次側 DC/DC の後段に配置することです。この構成は、障害の有無を監視します。

また、1 次側 DC/DC と 2 次側 DC/DC の間も適切な場所になります。この場合、電束の均衡を目的として、差動アンプからの電流を監視します。加えて、EV チャージャを使用する際にシステムや操作する人を保護するために、AMCS1100 または TMCS1100 のような絶縁型電流センサを使用することも重要です。

システム保護機能の強化

電動化に伴い、システム保護の必要性も増しています。安全動作領域から外れる事象が発生した場合に、システムが即座に応答できるようにすることで、半導体や影響を受けやすい他の部品の損傷を防止する必要があります。大半のシステムでは、何らかの形態のシステム保護を実装し、システムが意図したとおりに動作できるようにしています。たとえば、図 2 に示すロボットが非常に重い物品を持ち上げた場合、モーター内で大きな電流スパイクが発生する可能性があります。

2:産業用ロボット

電流スパイクは、負荷がロボットの能力を上回っていることを示唆している可能性があります。その場合、システム内または物理的なロボット・アーム内の部品に損傷をもたらすおそれがあります。コンパレータを内蔵した電流センシング・デバイスは、システムの安全動作領域を上回るようなピーク電流が電気モーターに突入する場合にそれを検知することができます。過電流コンパレータ内蔵の INA301 は、1μs 未満の短時間で応答し、アラートを設定できます。それにより、システムをシャットダウンすることもできます。これは、ポイント・オブ・ロード測定に似ています。この測定では、INA228 や INA226 のような超高精度双方向電流センス・アンプをシャント・ベース・センサとして使用し、特定のノードを流れる電流と電圧レベルを監視して、ノードが自らの安全動作領域にとどまっているかどうかを確認できます。

遠隔測定 (テレメトリ) 監視の実現

アプリケーションの電動化が進むにつれて、監視の要件が増え、エネルギー定格に基づく消費電力の把握に加え、予防保守につながる事象のより的確な観察も求められるようになっています。

予防保守を目的とするテレメトリ監視の例は、ラック・サーバー・システム内の冷却ファンに流れる電流と電圧のデータ・ロギングです。INA232 のようなデバイスを使用すると、ファンの消費電力に関するデータをログに記録できます。データ・ロギングを実施すると、ファンの動作が不安定であったり、寿命が近づいていたりする可能性があることを、システムから技術者へのアラートという形で通知できます。

デジタル電力モニタは、バス電圧と電流という両方の情報を取得できるため、このような事例に適したデバイスとして活用できます。デジタル電力モニタ IC はオンボードで算術演算を行い、電力、電荷、エネルギーを計算し、その情報 (およびバス電圧と電流のデータ) を I2C またはシリアル・ペリフェラル・インターフェイス (SPI) 経由で送信します。オンチップで算術演算を実行すると、CPU またはマイコンからその計算プロセスをオフローディングできるので、浮いた分のプロセッシング・リソースを使用して他のタスクを効果的に処理できます。CPU またはマイクロプロセッサが多数のタスクを処理しているシステムにとって、これは非常に重要です。

フォーム・ファクタの小型化

より多くの電子部品を内蔵するアプリケーションや、より小規模なスペースに収容するアプリケーションが増えている現状で、部品のサイズの小型化、または 1 個のユニットに搭載する機能の数を増やすことは、ボード面積全体の削減に役立ちます。スマートフォンやロボット・システムのような多くのシステムはサイズに制約があり、サイズの小型化と機能セットの増加を継続的に必要としています。

電流センシング・デバイスを小型化すると、設計者はシステム全体の監視量を増やしたり、システム全体のサイズを縮小したりできるようになります。システム全体のパラメータによっては、そのどちらにも利点があります。IC のサイズ小型化、またはユニットごとの機能数増加のどちらも、機能密度の向上という結果につながり、パーソナル・エレクトロニクス、オンボード・チャージャ、小型の協力型ロボット (コボット) のモーター・ドライブ・システムなどを強化できるからです。

超小型 IC または機能の豊富なチップを活用すると、システム小型化の土台を形成できます。たとえば、ウェハー・チップ・スケール・パッケージ (WCSP) のようなチップ・パッケージ・オプションや、シャント内蔵の INA253 を採用すると、設計者は性能や機能を低下させずに、システムのサイズを小型化できます。

まとめ

これらのトレンドと、そのトレンドへの対応に役立つ IC について的確に理解することで、高電圧設計の固有の課題に対処できます。また、電流測定値の監視を通じて、システムが安全動作領域内で稼働していることを確認し、信頼性と安全性を高めることができます。

参考情報

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