一般に、SAR(逐次比較)型A/Dコンバータで高精度の計測を行うためには、アナログ入力にドライバが必要ですが、低いスループットで、低い分解能の場合にはドライバが不要な場合もあります。SAR型A/Dコンバータのサンプリング動作とアナログ入力構造を検討して、ドライバの必要性について考えてみます。
SAR型A/Dコンバータのアナログ入力回路はサンプリング・スイッチ、抵抗Rsとサンプリング・コンデンサCsで構成されます。図1に、SAR型A/Dコンバータのアナログ入力回路を示します。
図1
サンプリング・スイッチは、入力信号を取り入れるためにアクイジションタイムtACQ の期間にオン(導通)となり、変換動作中にはオフ(切断)になります。サンプリング動作中には、アナログ入力信号源からサンプリング・コンデンサへ電荷が移動し、サンプリング・コンデンサが入力信号の電位まで充電されます。Nビット分解能のA/Dコンバータでは、サンプリング・コンデンサの電圧は、アクイジションタイム以内にVIN ± ½ LSBの範囲までセトリングする必要があります。
ここで、
- VIN はサンプリング対象のアナログ入力電圧、
- 1LSBは、NビットのA/Dコンバータの最下位ビットのサイズ
です。
通常、SAR型A/Dコンバータの入力の手前にRCフィルタを接続することで最良の結果が得られます。このフィルタはサンプリング動作中にサンプリング・コンデンサに電荷を供給するとともに、アナログ信号源への電圧グリッチを減少させます。図2にSAR型A/Dコンバータのアナログ入力をアナログ信号源で駆動する、簡素化した回路を示します。
図2
アナログ信号源には、サンプリングの瞬間にグリッチ電圧が掛かります。通常、CFLT はサンプリング・コンデンサの20倍~60倍の値にします。
アナログ信号源の出力インピーダンスは、サンプリング動作中の入力電圧のセトリングに対して重要な役割を演じます。アナログ信号源の出力インピーダンスが高くなると、入力信号がセトリングするまでの時間tsettleが増加します。
Nビット精度を実現するためには、tsettle ≤ tacqであることが必要です。
下の図3に、 100KSPSのスループットで動作するSAR型A/Dコンバータで、異なるROUT に対するセトリングタイムを示します。
図3
図3では、ケースIの出力インピーダンスが1500Ωのアナログ信号源は、入力信号はA/Dコンバータのアクイジションタイム以内にセトリングできませんが、ケースIIの出力インピーダンスが500Ωのアナログ信号源は、A/Dコンバータのアクイジションタイムの要件に適合します。このため、ケースIの条件では、このSAR型A/Dコンバータのアクイジションタイム以内に入力信号をセトリングさせるためにドライバが必要になり、ケースIIではドライバは不要です。
一般に、アクイジションタイムはSAR型A/Dコンバータのスループットに左右されます。ケースIの条件でも、100 kSPS未満のスループットなら、ドライバは不要になったはずです。
まとめ: 低いスループットで、低い分解能のSAR型A/Dコンバータ の場合、ドライバ・アンプは不要となることがあります。SAR型A/Dコンバータの分解能が増加し、 セトリングタイムが増加するとともに、スループットの増加によってアクイジションタイムが短くなることから、高分解能のSAR型A/Dコンバータで高スループットの動作には、セトリングタイムの短縮と必要な精度を達成するために、ドライバが必要になります。
これらの使用例の詳細についてはTIPD 168「超小型フォーム・ファクタ、低消費電力のデータ・アクイジション・システム向けリファレンス・デザイン」をご覧ください。また、私の同僚であるアミット・クムバシ(Amit Kumbasi)が書いたSAR型A/Dコンバータの入力タイプの比較をはじめとしたPrecision Hubの SAR型A/Dコンバータ関連のブログ記事 もご覧ください。
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
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