Other Parts Discussed in Post: TDA4VH-Q1

共著者:Hyunggi Cho (Phantom AI CEO)

近所や市街地で自動車を運転し、歩行中または自転車に乗っている子供たちを見かけると、路上での安全性の重要さを改めて思い起こします。NHTSA (米国運輸省道路交通安全局) が 2021 年に実施した調査によると、米国全体で 1 日あたり平均 20 人の歩行者が交通事故で死亡していることが明らかになりました。言い換えると、71 分に 1 人の割合です。世界保健機関 (WHO) が実施した 2022 年の調査は、毎年 130 万の人々が交通事故で死亡し、それらの死者のうち半数以上が歩行者、自転車運転中、バイク運転中のいずれかであることを突き止めました。残念なことに、これらの事故の大きな要因の 1 つは、ドライバーの集中力の欠如です。しかも、集中力の欠如という傾向は、年々高まっているように思えます。

先進運転支援システム (ADAS) は、ドライバー、歩行者、路上にいて保護が不十分な人々を保護できるように、集中力の低下による影響の低減に貢献します。ファイブスター安全定格に適合し、規制による期限を順守できるように、リアカメラ、フロントカメラ、ドライバー監視システムの追加が必要な現状で、多くの自動車メーカーは自社の自動車アーキテクチャを進化させ、ADAS ドメイン コントローラにいくつかのアクティブ型安全機能を集約しようとしています。

ドメイン コントローラの一般的な要件:

  • 複数のセンサとのインターフェイスの確保:センサの数、属性、分解能。
  • 認識、運転、駐車の各アプリケーションに適した、ビジョン、人工知能 (AI)、汎用処理能力。
  • 低帯域幅かつ高速の自動車ネットワークへの接続能力。
  • 重要な動作の異常を防ぐための機能安全とセキュリティ。

ADAS ドメイン コントローラの処理能力要件とシステム要件

システムのメモリ、コンピューティング (計算) 性能、入出力 (I/O) 帯域幅に関する要件が高まっていることが原因で、システム設計の複雑度が増し、システム コストが上昇しています。現在のハイエンド ADAS システムは、解像度の異なる複数のカメラと、自動車の周囲に取り付けた多様なレーダー センサを組み合わせ、運転環境の周囲全体を認識できるようにしています。場面をより高い精度で解釈できるように、センサが収集した一連の画像のそれぞれに対し、AI とコンピュータ ビジョンに対応した検出アルゴリズムや分類アルゴリズムを高い fps (フレーム レート/秒) で動作させます。その結果、システムとソフトウェアの設計者はいくつかの課題に直面することになります。たとえば、これらのセンサと処理システムの間でインターフェイスを確立し、内容をメモリに転送するほか、複数の分類アルゴリズムがリアルタイムで処理を実行できるようにデータを同期する必要があります。

図 1 に示す TI の TDA4VH-Q1 システム オン チップ (SoC) は、ビジョンの事前処理、奥行きと動きに関連するアクセラレーション (高速処理)、AI ネットワーク処理、車載ネットワークとのインターフェイス、セーフティー マイコン (MCU) といった機能を内蔵しています。TPS6594-Q1 は、ASIL (車載セーフティ インテグリティ レベル) D を満たす必要のあるアプリケーションで TDA4VH-Q1 に電力を供給するために最適化済みのパワー マネージメント IC です。この IC は、電圧監視、TDA4VH-Q1 SoC のハードウェア エラー検出、Q&A (問い合わせと応答) ウォッチドッグのような機能安全向けのいくつかの機能を搭載しています。Q&A ウォッチドッグは SoC 上のマイコンを監視し、ロックアップ (機能停止) を引き起こすソフトウェア エラーが発生していないかを明らかにします。

 

1TDA4VH-Q1 SoC の概略図

マルチカメラ ビジョン認識機能を実現

プロセッサ性能の向上を必要とする ADAS アプリケーションの一例は、マルチカメラ ビジョン認識機能です。自動車の周囲に複数のカメラを設置すると、360 度の視野を確保でき、正面衝突の防止に役立つほか、死角になった位置、および隣接レーンでの交通の流れや歩行者に対してドライバーが継続的に注意を払うのに役立ちます。

TI の J784S4 プロセッサ オープン ソース SDK (ソフトウェア開発キット) を使用して、Phantom AI では TDA4VH-Q1 向けにマルチカメラ ビジョン認識システムを開発しました。Phantom AI の PhantomVision システムは、TDA4VH-Q1 プロセッサに適した一連の ADAS 機能を採用し、EU の一般安全規則 (General Safety Regulation) 準拠から、最大で SAE (Society of Automotive Engineers:米国自動車技術者協会) レベル L2 と レベル L2+ までの範囲に対応しています。PhantomVision は基本機能として、自動車、路上にいて保護が不十分な人々、何もない空間、交通標識、交通信号の検出機能を搭載しているほか、付加機能として、工事中エリア、ウィンカー、テール ライトを検出する機能や、AI ベースの自己経路予測機能なども採用しています。PhantomVision のマルチカメラ認識システムは、フロント、サイド、リアビューの各カメラを組み合わせて自動車の周囲 360 度の視野を確保し、死角の解消に役立ちます (図 2)。

 

2360 度の視野を実現するために Phantom AI が使用する複数のカメラの配置

Phantom AI では、高性能のコンピューティング (計算) 能力、ディープ ラーニング エンジン、信号と画像の事前処理に適した専用アクセラレータという TDA4VH-Q1 の特長を活用して、リアルタイム動作を実現しています。ビジョン事前処理専用のアクセラレータが、画像キャプチャ、色空間の変換、マルチスケール画像ピラミッドの生成など、カメラのパイプライン処理を実行します。TDA4VH-Q1 には、数 TOPS (teraoperations per second:毎秒 1 兆回の処理) に達するマルチコア デジタル信号プロセッサと、行列乗算支援エンジンが搭載されており、TI のディープ ラーニング ライブラリとの組み合わせで、高速アルゴリズムや最小 I/O 動作スケジューリング機能を備えた効率的なニューラル ネットワークを実現できます。その結果、高精度や低レイテンシという特長を達成できます。この動画では、 TDA4VH-Q1 プロセッサを使用した PhantomVisionTm システムの ADAS 機能をご紹介します。 

まとめ

SAE レベル L2 とレベル L2+ の運転に対応できる、洗練されたマルチ センサ ADAS システムを構築する際に、水冷式のスーパーコンピュータは必要ありません。TI と Phantom AI の連携を通じて得られた成果は、Phantom AI のチームのような車載関連のエキスパート エンジニアが、TI の TDA4VH-Q1 のような優れた設計の SoC を活用すれば、機能安全の要件に対応できる、魅力的でコスト効率の高いシステムを市場へ出荷できることを示しています。私たちは自律走行の未来を熱心に追い求めることもできますが、機能安全の要件に適合する、コスト効率の優れたシステムを設計する真の目標は、私たちの住む世界がいっそう安全になるよう支援することです。自動車市場のより多くのセグメントが ADAS テクノロジーにアクセスできるようになると、より多くの自動車がより多くの ADAS 機能を搭載し、ドライバーと歩行者の両方にとって、より良好で、より安全な環境を実現しやすくなります。

参考情報

 

Anonymous