自動車の燃費効率規制が継続的に要求を高めている現在 (米国環境保護庁 (EPA) の規定は、2026 年までに 1 ガロンあたり 40 マイル、つまり 1 リットルあたり 16.99km)、車載オーディオの設計者の課題となるのは、没入型のオーディオ環境を製作しながら、自動車の重量を軽減し、全体の効率を改善することです。
車載外部アンプを設計する際には、オーディオ・システムのアーキテクチャを刷新することで、ユーザーのオーディオ体験を向上させることができます。それには、出力電力の増大、よりインピーダンスの大きなスピーカの活用、システムへの Class-H 制御の実装といった方法があります。この記事では、これらの各アプローチについて詳細に説明し、それぞれがオーディオ・システムの重量と性能に及ぼす影響についても考察します。
自動車のオーディオ・デザインにClass-H制御を実装 | |
『TAS6584-Q1』と『LM5123-Q1』がどのように優れた熱性能、より小さなシステム・フット・プリント、およびより低い消費電力を実現しているのか、詳細はビデオ”Class-H電力制御によるシステム効率と消費電力の最適化”をご覧ください。 |
電源電圧の上昇と出力電流の増加によって出力電力の増大を実現
OEM (自動車メーカー各社) が自動車の重量軽減を求めているのと同時に、消費者は車内に没入型環境を作り出すプレミアム・オーディオ性能を欲しています。このような環境を作り出すシステムを開発するために、設計者はより強力なサブウーファーを複数統合する傾向があります。これらのサブウーファーは、窓を振動させるほどの力強い低音を継続的に供給し、非常に広いダイナミック・レンジ (最も小さい音と最も大きい音との差を dB 単位で測定した値) でサウンドを再生することができます。
ダイナミック・レンジの拡大と出力電力の増大を同時に達成するには、入力電源電圧を高くすることを考慮します。表 1 に、スピーカのインピーダンスを順に大きくしたとき、75W の出力電力を維持するために必要な電源電圧と出力電流の値を示します。
同一の出力電力 | |||
出力電力 (W) | 75 | 75 | 75 |
スピーカのインピーダンス (Ω) | 2 | 4 | 8 |
電源電圧 (V) | 20 | 26 | 36 |
出力電流(A) | 8.7 | 6.1 | 4.4 |
表 1:さまざまなチャネル要件間の関係 (同じ電力)
表 2 に、必要な電力を順に大きくしたときの電源電圧との関係を示します。この場合、スピーカのインピーダンスが同じであることを前提にすると、必要な出力電力が 100W へ、次いで 125W へと大きくなるほど、電源電圧と出力電流の両方を大きくする必要が生じます。
出力電力を増加 (4Ω) | 出力電力を増加 (8Ω) | |||||
出力電力 (W) | 75 | 100 | 120 | 75 | 100 | 120 |
スピーカのインピーダンス (Ω) | 4 | 4 | 4 | 8 | 8 | 8 |
電源電圧 (V) | 26 | 31 | 34 | 36 | 42 | 45 |
出力電流(A) | 6.1 | 7.1 | 7.8 | 4.4 | 5.0 | 5.5 |
表 2:さまざまなチャネル要件間の関係 (電力を順に増加)
よりインピーダンスの大きいスピーカを使用すると全体重量を軽減できる理由
すでに表 1 で提示したように、よりインピーダンスの大きいスピーカを使用する利点は、同じ出力電力を維持したまま、出力電流が大幅に小さくなることです。また、必要な出力電流が小さいほど、銅配線の相対サイズ (直径) も小さくすることができます。たとえば、出力電力が同じ場合でも、4Ω や 2Ω のスピーカの代わりに 8Ω のスピーカを使用すると、より細い直径の配線で対応できます。この結果、オーディオ・ケーブルの重量を軽減しやすくなります。
図 1 に示すシンプルな設置は、4 ドア車のドア毎、およびリアの付加的な 2 箇所を含めた合計 6 箇所に、ミッドレンジのスピーカを取り付けた 6 スピーカ構成のカー・オーディオ・システムを表しています。この場合、すべてのスピーカを接続するために、約 23.1mの銅線が必要です。
図 1:一般的な 6 スピーカ構成のカー・オーディオ・システムを接続するために必要な銅線の長さ
スピーカのインピーダンスの増加に伴う望ましい影響は、ケーブルの直径を細くする機会が生じることです。すべてのスピーカをオーディオ外部アンプに相互接続するために標準的に使用するケーブルのせん断長 (必要な長さに切り終わった後のケーブル) に、この直径を掛けると、オーディオ・システム全体の重量が求まり、直径が小さくなるほど重量が大幅に軽減できることがわかります 。
Class-H 制御の実装によるシステム効率の最適化といっそうの重量軽減
従来型のオーディオ・システムの場合、電源ソリューションは通常、図 2 に示すとおり、オーディオ負荷が必要とするピーク電力を供給できるように、必要な最高電圧をすべてのスピーカに供給することを前提としてオーディオ・アンプの電源電圧 (PVDD というラベルで図示) を設定します。
図 2:従来型のオーディオ・システムの PVDD
(『TAS6584-Q1』のような車載 Class-D オーディオ・アンプを使用して) Class-H 制御という手法を実装すると、アンプに印加する PVDD 電圧を最適化し (図 3 を参照)、オーディオ波形のエンベロープ (包絡線) を動的に追跡することができます。Class-H 制御を採用すると、オーディオ設計の効率が大幅に向上し、仮に PVDD 電圧を 42V に固定していれば消費 (浪費) していたはずの電力を節減することができます。
図 3:Class-H 制御を使用した場合の PVDD
Class-H 制御が効率に及ぼすことのできる影響を詳細に示すために、表 3 のデータを観察してみましょう。『TAS6584-Q1』をベースとする車載対応 Class-H オーディオとトラッキング電源電圧のリファレンス・デザインは、Class-H 制御の有無を切り替えることができます。表 3 はこのデザインを使用して、システムへの電力入力 (Pin) と出力電力 (Pout) を比較しています。Class-H 制御を使用する場合、昇圧電源コントローラとオーディオ・アンプの間で 10% 近くシステム効率を改善できています。
10秒のオーディオクリップ | Pin | Pout | システム効率 |
Class-Hなし | 49.33 | 33.93 | 68.8% |
Class-Hをイネーブル | 43.02 | 33.90 | 78.7% |
図 4:Class-H 制御の使用による全体の電力損失の低減
効率を改善した結果、図 4 に示すように、外部アンプ全体の電力損失も低下しています。
図 4:Class-H 制御の使用による全体の電力損失の低減
この点を詳細に示すために、『TAS6584-Q1』オーディオ・アンプと『LM5123-Q1』昇圧コントローラを採用した電源の組み合わせで、Class-H 制御を有効にした場合と無効にした場合の温度カメラ画像を観察し、それらの熱特性を比較してみます。図 5 に、Class-H 制御を実装した結果、全体の熱負荷がどれほど大幅に軽減できるかを示します。
図 5 が示すように、Class-H 制御による (電力損失の低減を通じた) 効率の改善が熱負荷の低減に役立ち、内部の発熱を放射するためのヒートシンクを小型化できるようになります。
図 5:Class-H 制御の使用による発熱の低減
波形 | コンフィギュレーション | 『LM5123』 MOSFET 温度 (℃) | 『TAS6584-Q1』インダクタ温度 (℃) |
1 kHZ 900ms 1/8のパワー, 100 ms フルパワー |
Class-Hあり | 56.6 ℃ | 56.4 ℃ |
Class-Hなし | 76.7 ℃ | 76.2 ℃ | |
差分 | 20.1 ℃ | 19.8 ℃ |
表4:『LM15123-Q1』と『TAS6584-Q1』の熱画像からの温度比較
まとめ
よりインピーダンスの大きいスピーカを活用し、Class-H 制御を実装することで、いっそう重量を軽減したオーディオ・システムを開発することができます。また、外部アンプを含めたオーディオ・システムの重量軽減により、航続距離の延長といった利点に加え、オーディオ設計全体のスピーカ・チャネル数を増やしたり、既存のカー・スピーカ数でチャネルごとの平均出力電力を大きくしたりもできます。
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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年2月22日)より翻訳転載されました。
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