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オフィスビルや工場、または自動車などで、既存の機械部品や固定の電気回路がソフトウェアに置き換えられるケースが増えています。たとえば、機械式ロックをスマート ロックに置き換えると、ユーザーはアプリを使用してロックを制御できるようになり、メーカーはソフトウェアを更新することでロック機能の改善や修正が可能となります。ただし、このトレンドに関して忘れがちな課題が 1 つあります。それはメモリ要件に対する要求が増加することです。

マイコン (MCU) は一般的にフラッシュ メモリを組み込んでおり、メモリ サイズは急激なペースで拡大を続けています。この全体的なトレンドに加えて、フラッシュ要件の増大につながるマイコン分野特有のトレンドがいくつかあります。コンピューティング帯域幅の拡大、機能の統合、付加的な大規模通信スタックの統合などです。ワイヤレス更新が必須の場合には、プライマリ イメージとバックアップ イメージの両方を格納する必要があるため、フラッシュに対するこれらの要件が自動的に 2 倍になります。

より多くのメモリを求める圧力が原因で、多くの設計者は、チップに搭載しているメモリを使い果たす事態への不安を抱えています。また、メモリ要件のこの急速な拡大は、スケーラビリティとコストどちらの観点でも持続可能ではありません。

これらの懸念に対処する 1 つの方法は、外部フラッシュと組み合わせるマイコン ソリューションを採用することです。

マイコンとフラッシュ テクノロジーを分離することで、よりスケーラブルで、よりコスト効率の優れたシステムを製作できます。スケーラビリティに関しては、フラッシュ組込み型のマイコンを、より多くのメモリにアップグレードする場合、まったく異なるデバイスへの差し替えが必要になることがあります。コストに関しては、性能要件が高まり、より微細なプロセス ノードでマイコンを製造する場合、一般的なデジタル相補型金属酸化膜半導体 (CMOS) プロセスとは異なり、フラッシュはチャージ ポンプのようなアナログ コンポーネントを内蔵しているため、単純に小型化することはできません。より微細なプロセス ノードへのスケーリングが困難であることから、フラッシュ組み込み型のマイコンには、特にメモリ サイズが大きい場合、コストの上乗せが発生します (16MB の場合、外部フラッシュに比べて最大で 2 ドル増)。ただし、マイコンからフラッシュ メモリを切り離す場合も、特に性能、セキュリティ、機能安全などに関して設計上の課題が生じます。コストやスケーラビリティの利点を確保しながら設計の課題を解決できるような外部フラッシュ メモリを設計するために、TI OptiFlash メモリ テクノロジーを開発しました。

1 に、TI AM263P4-Q1 マイコンが採用している OptiFlash テクノロジー アーキテクチャの概略図を示します。

1AM263P4-Q1 マイコンが採用している OptiFlash メモリ テクノロジー

OptiFlash テクノロジーとは

OptiFlash テクノロジーは、ハードウェアである複数のメモリ コントローラ アクセラレータと、複数のソフトウェア ツールの組み合わせです。性能の課題に対処するために、AM263P4-Q1 マイコンは、外部フラッシュ IC とのインターフェイスとして、高帯域幅でピン数が少ないオクタル シリアル ペリフェラル インターフェイス (OSPI) を採用しました。このインターフェイスは、8 本のデータ レーンを使用して最大 133MHz のダブル データ レートで動作できます。外部インターフェイスを使用して拡張したフラッシュ キャッシュが、フラッシュ命令のコントローラとして動作し、キャッシュされた命令をオンチップ RAM に格納します。コードの構造によっては、フラッシュ キャッシュ単独で eXecute-in-place (XIP) 性能を最大 80% 向上させることができます。

外部フラッシュ使用時の性能に関するもう 1 つの一般的な課題は、ブート時間です。OptiFlash テクノロジーではハードウェア ブート アクセラレータを使用してブート プロセスの一部を並列化します。その結果、コントローラ エリア ネットワーク (CAN) の初期メッセージを最短で 56ms または 118ms (イメージのサイズにより異なる) で完全に機能させることができます。ハードウェア アクセラレータに加えて、OptiFlash テクノロジーは smart placement (スマートなコード配置) のような静的コード分析ツールも搭載しています。このツールはアプリケーション コードをプロファイリングし、実行頻度に応じて密結合メモリ (TCM)RAM、フラッシュのいずれかをコードの配置場所として推奨します。

Automotive Safety Integrity Level (ASIL) D までの安全性や E-Safety Vehicle Intrusion Protected Applications (EVITA) ハードウェア セキュリティ モジュール (HSM) のフル バージョンまでのサイバーセキュリティを達成できるよう設計されたデバイスに OptiFlash を搭載する場合には、外部フラッシュの採用に向けた機能安全とセキュリティ機能について考慮する必要があります。データ転送中に一貫性を確保するために、TI はハードウェアにインライン エラー訂正コード (ECC) を実装し、送信エラーの検出と訂正の両方を実行できるようにしています。セキュリティに関しては、フラッシュが外部にあることが原因で、少なくとも理論的には、攻撃者がデータ ラインに不正アクセスし、中間者 (man-in-the-middle) 攻撃を使用して、実行中のコードを読み取ることが可能です。外部フラッシュ上のコードとデータを暗号化すれば、ライン上で「傍受される」どのデータも暗号化済みであるため、この可能性を低減できます。ただし、OptiFlash ではフラッシュから XIP でコードを実行する必要があるので、ユーザーの介入なしにハードウェア内でセキュリティ機能を実行できるように、オン ザ フライの認証および暗号化ブロックを採用しています。

これらの性能アクセラレータを大容量のオンチップ RAM (AM263P4-Q1 では 3.5MB) と組み合わせると、総合的な性能は、オンチップ RAM 上でコードを直接実行する場合に近い水準に達します。TI のベンチマーク データでは、オンチップ RAM で実行する場合に比べて、OptiFlash テクノロジーを使用する場合の XIP 性能の低下は、CPU サイクル数のわずか 10% の増加にとどまることが明らかになりました。

まとめ

ソフトウェア定義アーキテクチャの採用に伴ってメモリ要件が増大に向かう中、OptiFlash メモリ テクノロジーはメモリ アーキテクチャのパラダイム シフトを実現し、外部フラッシュのスケーラビリティとコスト効率を向上させています。それにより、ワイヤレス更新を使用して自動車の重要なソフトウェアを更新する機能や、比較的大きな通信スタックを格納するためにより多くのメモリ空間を必要とするネットワーク強化型システムなど、より豊富な機能を搭載したシステムが実現可能になります。OptiFlash メモリ テクノロジーは、スケーラビリティとコスト効率を向上させたメモリ ストレージを実現し、自動車業界における多くの最新トレンドの導入障壁を引き下げることができます。

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