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多くの企業や個人が、自らのエネルギー消費を削減しながら再生可能エネルギー源の使用を増やす方法を模索しており、その傾向はますます強まっています。最も大きな効果を生み出すには、どこに注力するべきでしょょうか?

世界の電力のうち 65% 以上が、産業用施設、商用ビル、個人の家庭で、電気モーターや電源装置への電力供給に使用されています。Our World in Data (データで見る私たちの世界) サイトによると、発電量の 60% は石炭や天然ガスの燃焼によるものであり、再生可能エネルギー由来はわずか 10% です。インテリジェントな可変周波数デジタル・モーター制御を採用すると、エネルギー消費量を 25% 以上削減できる可能性があります。またインテリジェントなデジタル電力制御を採用すると、太陽光や風力のエネルギー生成効率を最大限に高め、エネルギー消費の最も大きい電源供給での消費を最小限に抑えることができます。この記事では、インテリジェント制御アプリケーションに関するいくつかのトレンドに注目します。また、インテリジェント制御を活用してエネルギー消費を減らし、再生可能エネルギーの効率を高める方法も解説します。

インテリジェントなモーター制御

エアコン (図 1) は、電力グリッドから大きな電力を消費する機器の 1 つです。具体的なエネルギー効率規格は地域ごとに異なりますが、目標の定格を達成し、力率の仕様に適合するために、どの設計でも高度なモーター制御手法と力率補正 (PFC) アルゴリズムを採用する必要があります。

エアコン内の各モーター (コンプレッサや冷却ファン) を制御するために、最大 20kHz で動作する制御ループが必要になることがあります。一方、PFC は通常、最大 50kHz の動作周波数を必要とします。したがって、複数の高周波制御ループを高い信頼性で実装するために、マイコン (MCU) は、短いレイテンシで迅速かつ効率よく計算を処理できる必要があります。

 図1:エアコン・システムのブロック図

エアコン・システム向けマイコンは、複数の A/D コンバータ (ADC) と複数の PWM (パルス幅変調) チャネルを必要とします。また、スイッチング事象に同期できるフレキシビリティや、2 個のインバータと PFC 回路に対して独立してサンプリングと制御を実行できる能力も必要です。パワー・エレクトロニクスを保護するために、アナログ・コンパレータと、PWM のグリッチ排除機能も必須です。

IEC (国際電気標準会議) 60730 の要件に基づき、エアコン向けマイコンはクロック保護機能も搭載します。これには、1% 以内の精度を達成する 2 個のオンチップ発振器や、ウォッチドッグとクロック異常検出回路が含まれます。

エアコン向けデジタル・インターリーブ PFC を搭載したデュアル・モーター制御のリファレンス・デザインは、単一の 64 ピン C2000Tm 『TMS320F2800137』マイコンを使用して 97% を上回る効率でコンプレッサとファンのモーターを制御するハードウェアとソフトウェアの例を提示します。また、このデザインは 72kHz で動作するデジタル・インターリーブ昇圧 PFC 段を搭載し、96% を上回る電力効率を達成する (図 2) ほか、多くの一般的なシステム機能や通信機能も備えています。

 図 2:エアコン向け PFC コンバータのリファレンス・デザインが達成する電力効率

C2000 リアルタイム・マイコンのアーキテクチャを最適化した結果、最小でフラッシュの使用量を 40KB、中央演算装置 (CPU) の使用率を 30% にとどめることが可能であり、センシング (ADC)、処理機能 (CPU)、制御 (PWM) の間のレイテンシを短縮する設計を採用しています。TI のベンチマーク (英語) によると、120MHz で動作する TI のこのデバイスと同じ全体性能を達成するには、Arm® Cortex®-M7F ベースのマイコンを 240MHzで動作させる必要があります。

同じリファレンス・デザインを単一モーターや、モーターと PFC の組み合わせといったアプリケーションにもスケーリングでき、より小型の『TMS320F2800137』シリーズの 48 ピンまたは 32 ピン・パッケージや、64KB ~ 256KB のオンチップ不揮発性フラッシュ・メモリ・オプションも利用できます。家庭用エアコン・システムのモーター効率を高めるこの手法は、可変速度かつ可変負荷のシステムで動作するほぼすべてのモーターに適用でき、低電圧のバッテリ動作デバイスから、最大クラスの電力を消費する産業用アプリケーション向け AC ドライブまで、幅広い用途に対応可能です。

インテリジェントなデジタル電源

デジタル電源の場合、目標は再生可能エネルギーをより効率的に生成し、エネルギーの変換と使用の効率を最大限に高めることです。たとえば、太陽光発電の市場では、集中型の大電力ソーラー・インバータから、マイクロインバータや電力オプティマイザのような分散型小電力ソーラー・システムへと移行するトレンドが見られます。これらのマイクロインバータや電力オプティマイザは通常、数枚のソーラー・パネルごとに 1 台を設置します。それにより、複雑な太陽光の条件下で、エネルギー損失を減らし、効率を高めることができます。ソーラー・システムに対して、このようなモジュール・レベルのパワー・エレクトロニクスをさらに追加する場合には、リアルタイム・マイコンを低コスト化すると同時に、マイコンの制御下にある各ソーラー・パネルについて最大電力点追従 (MPPT) を実行できるだけの十分な処理能力も確保する必要があります。

世界各地でエネルギー利用率を向上させるには、効率的で小型、かつ安定した電源が必要です。この要件により、電力変換システムの設計者は、電力密度の高い設計を実現しながら、「高性能かつ十分小型」のシステムに向けた効率と高速過渡応答のニーズも満たす必要がある、という課題に直面しています。さらに、スケーラビリティを高めるために既存のアナログ・ベースの設計をデジタル化する流れも、より低コストで高性能のリアルタイム・マイコン・ソリューションの需要を後押ししています。

新しいリアルタイム制御マイコン・シリーズ

C2000 リアルタイム・マイコン製品ラインアップに対する最新の追加製品である『TMS320F2800137』は、リアルタイム技術の低コスト化に役立つほか、アナログ設計者とデジタル設計者の両方に向けてローレベル、ミッドレンジ、ハイレベルのオプションを取り揃えた、長期的なソフトウェア互換性を持つプラットフォームをさらに拡張することになります。モーター制御、グリッド・インフラ、産業用電源などのアプリケーションに取り組むエンジニアは、この新しいシリーズを採用することで、エネルギー消費量の削減と再生可能エネルギー源の使用効率向上を実現する、各種新製品を製作することができます。

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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年10月31日)より翻訳転載されました。
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