「DC/DCコンバータのデータシート」ブログ・シリーズの最終回では、DC/DCレギュレータ部品での導通損失について説明します。
導通損失は、DC/DCコンバータ内のデバイスの寄生抵抗により発生する損失です。これらの損失は、デューティ・サイクルに直接関連しています。内蔵のハイサイドMOSFETがオンになると、そこに負荷電流が流れます。ドレイン-ソース間チャネル抵抗(RDSON)に電力消費が発生します。これは次の式1のように表されます。
LM 2673のような非同期デバイスの場合、内蔵MOSFETがオフになると、ダイオードは順方向バイアスになります。この期間中、インダクタ電流は出力コンデンサ、負荷、順方向バイアスのダイオードに流れて減少します。負荷電流によってダイオードが導通している状態になるので、そこでは次の式2で表されるような電力消費が発生します。
ここで、VFは選択したダイオードの順方向電圧降下です。
すべてのインダクタにはコイル内のワイヤの抵抗である有限のDC抵抗(DCR)があるため、導通損失は、内蔵MOSFETとキャッチ・ダイオードだけでなく、インダクタにも生じます。インダクタでの電力消費は次の式3のように表されます。
導通損失は負荷電流に依存します。負荷が重くなると、MOSFETでの導通損失が増加し、支配的要因となります。導通損失に、スイッチング、ドライバ、内蔵の低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)での各損失が加わることで大きな熱が発生し、集積回路の接合部温度が上昇します。接合部温度の上昇は次の式4のように表されます。
ここで、ICTjはICの接合部温度、TAは周囲温度、θJAは接合部-周囲大気間の熱抵抗、ICPdはIC内のみでの合計消費電力です。
MOSFETのRDSONは、通常は温度係数(RdsonTco)を持ちます。ICの接合部温度が上昇すると、RDSONは温度係数に基づき、公称値を超えて増加します。このパラメータはデータシートに記載されていない場合がありますが、TIのWEBENCH® Power Designerソフトウェアにはこのパラメータの情報が含まれており、設計効率の計算に使用されるため、正確な結果が得られます。次の式5により、接合部温度に応じてRDSONを調整できます。
ここで、RdsonNomはRDSONの公称値であり、データシートに記載されています。
RDSONの増加量は、デバイスに施されているヒートシンク処理の程度と、デバイスの接合部温度によって決まります。適切にヒートシンク処理を行わないと、RDSONが急激に増加し、全負荷時の効率が大幅に低下する可能性があります。この現象は、ICのダイ取り付けパドル(DAP)が基板に対して適切にハンダ付けされていないような場合に顕著に表れます。
損失の計算は反復作業です。効率について正確な結果を得るためには、ICの電力損失の計算を繰り返すたびに、接合部温度と計算結果のRDSONを評価する必要があります。WEBENCH Power Designerはこの処理を行い、さらにパッシブ部品での損失の計算結果も表示します。DC/DCレギュレータと共に、高効率の維持に役立つ適切な部品を選ぶためには、これらの損失を把握することが重要です。合計導通損失は、次の式6のように表されます。
全体の損失については、次の式7で合計損失を計算できます。
結果として得られるDC/DCレギュレータ設計の効率は、次の式8で表されます。
図1は、異なる入力電圧で取得した、LM 2673の負荷電流曲線に対する全体的な効率を示したものです。図を見ると、軽負荷時には効率が低下しています。このシリーズの第1部と第2部の内容から、これはスイッチング損失と、ドライバおよびLDOでの各損失に起因していることがわかります。また、最大負荷電流時には高入力電圧(VIN)で低効率となっていますが、これは入力電圧が高くなるとスイッチング損失も増加するためです。低VINでは、負荷が1Aを上回ると比較的高効率になっていますが、これはスイッチング損失が減少するためです。
図1: LM 2673の効率
データシートを読んで効率について理解するためのブログ・シリーズは、これで終了です。ここまでの内容で、DC/DCレギュレータ設計の各部品で発生するさまざまな損失を理解できるようになっているはずです。今後、DC/DCレギュレータとそのスイッチング周波数や、ヒートシンクに必要な基板スペースを決める場合、またダイオードやインダクタのようなパッシブ部品を選択する場合には、アプリケーションのニーズに基づき、必要な情報を得たうえで意思決定を下すことができます。SIMPLE SWITCHER DC/DCレギュレータを選択し、今すぐWEBENCH Power Designerで設計を開始しましょう。
その他のリソース
- LM 2673 SIMPLE SWITCHER 3A降圧型電圧レギュレータ(可変電流制限付き)について詳細をご確認ください。
- 「DC/DCコンバータのデータシート - システム効率についての解説」をご覧ください。
- 「DC/DCコンバータのデータシート - システム損失についての解説 」をご覧ください。
- 今すぐWEBENCH Power Designerで設計を開始しましょう。
- TIのSIMPLE SWITCHER DC/DCレギュレータの幅広いポートフォリオについて詳細をご確認ください。
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
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