最新のスマート IoT デバイスの多くは、ライン電源 (商用電源) からの電力供給で動作しますが、想定外の停電が発生した場合に安全なパワー・ダウンまたは「last gasp」(停電通知) 通信を実行するためのバックアップ電源も必要です。たとえば、電気メーター (電力計) は停電が発生した時刻、場所、持続時間などの詳細を無線周波数 (RF) インターフェイス経由で送信してホストと共有することができます。最近は、狭帯域 IoT (narrowband IoT:NB-IoT) がこの種の動作を実行するうえで一般的になってきました。以下のような利点があるからです。
- 2G、3G、4G の既存の各周波数帯を使用可能
- 南北アメリカ、欧州、アジアの各国や地域で活動している 1 つまたは複数の通信事業者によるサポートを活用可能
- 汎用パケット無線サービス (general packet radio service:GPRS) に比べて、消費電力とピーク電流が非常に小さい
適切な設計を採用したバックアップ電源方式は、適切な容量 (Ah 単位の電流容量) を確保したバックアップ電源の実装や、通常動作とバックアップ動作の間のシームレスな切り替えに役立つほか、保守の必要なしに多くの停電状況に対応できます。この記事では、NB-IoT と RF の各種規格に対応できるバックアップ電源方式を実装するために、TI の昇降圧コンバータである『TPS61094』と 1 個のスーパーキャパシタの組み合わせを使用する 1 つのシンプルな手法を提示します。また、『TPS61094』 をベースとするソリューションを、TI の既存の各種リファレンス・デザインとも比較します。
『TPS61094』 デモ・ビデオ (英語) を見る |
NB-IoT 向けのバックアップ電源
表 1 に、ある程度の期間にわたって NB-IoT をさまざまな動作モードで使用する場合の消費電流を示します。1.32 秒にわたるデータ送信モードでの 310mA をピークとし、動作モードが変化するたびに負荷は大きく変動します。プロセス全体の平均消費電流は、80 秒にわたって 30mA です。この負荷の持続時間では、メイン電源グリッド (商用電源) が突然ダウンした場合に、十分なバックアップ電力および電源のシームレスな切り替えが必要となります。静止電流 (IQ) が 60 nAである双方向昇降圧コンバータ『 TPS61094』 を採用すると、高信頼性かつシンプルなバックアップ電源を設計すると同時に、付加的な回路なしでスーパーキャパシタの充電と放電の両方を実行するワンチップ・ソリューションを実現できます。
モード | スリープ・モード | 送信モード | 送信モード | ||||||
ウェークアップとスキャン | データ Tx (送信) | RRC (Radio Resource Control:無線リソース制御) 操作 | RRC (無線リソース制御) の解除 | PSM (パルス・ステップ変調) | |||||
電流(mA) | 0.003 | 28 | 310 | 40 | 20 | 310 | 20 | 8 |
30 (平均値) |
時間(秒) | * | 2 | 1.32 | 12.68 | 40 | 1.25 | 1 | 30 |
80 (合計時間) |
* 顧客固有または最終製品固有数分から数日にわたることがあります。
表 1:Saft Batteries が公開している NB-IoT の負荷プロファイルの例
単一のスーパーキャパシタと 『TPS61094』 を使用して効果的なバックアップ電源回路を実装するため、NB-IoT 負荷に対して十分なバックアップ電力を供給できるように『TPS61094』 評価基板 (EVM)をどのように設定したかを図 1 に示します。
図1:『TPS61094 EVM』 を使用したバックアップ電源の構成
システムの電源をオンにすると、『TPS61094』 は Buck_on (降圧有効) モードに移行し、バイパス FET (電界効果トランジスタ) のターンオン、500mA の定電流を使用したスーパーキャパシタへの電力供給、およびスーパーキャパシタ両端間電圧が 2.5V を上回ったときの充電停止を行います。VSYS から VOUT へ電力を直接供給します。停電が発生して VSYS が降下した場合、『TPS61094』 は自動的に Boost_on (昇圧有効) モードに移行し、バイパス FET のターンオフと、スーパーキャパシタに蓄積したエネルギーにより VOUT の供給を行います。
図 2 に、バックアップ電源のサイクル全体に対応するオシロスコープの測定値を示します。VIN は、グリッドから受け取るシステム電圧を意味します。VOUT は 『TPS61094』 の出力電圧であり、VSUP はスーパーキャパシタの電圧です。IOUT は、負荷の消費電流を意味します。この例で、負荷は 100mA です。これは、負荷プロファイルの平均消費電流に比べて 3.33 倍の値です。極端な負荷状況でグリッドがダウン (商用電源が停電) したときに 『TPS61094』 がどのような方法で入力電力を切り替えるのか確認するために、負荷を大きくしました。
システム電源が突然停電した場合、『TPS61094』 はただちに Boost_on (昇圧有効) モードに移行し、スーパーキャパシタから引き出す電力を使用して VOUT のレギュレーションを実施します。この昇降圧コンバータは必要な出力電流を 254.5 秒にわたって供給します。これは、NB-IoT にとって 11.5 回分のトランザクション (操作) に相当する時間です。スーパーキャパシタの電圧が 0.7V に降下するまで、『TPS61094』 はスーパーキャパシタを放電します。その電圧まで低下した時点で、このデバイスはシャットダウン・モードに移行し、システムの VIN が正常な値に復帰するまでそのモードを継続します。Buck_on (降圧有効) モードで、『TPS61094』 は定電流を使用してスーパーキャパシタをシームレスに充電します。図 2 が示すように、スーパーキャパシタの放電と充電の間の切り替えは非常に滑らかです。
図2:『TPS61094』 の電源サイクル (オンやオフの切り替え) の測定値
他のバックアップ電源の実装
他のソリューションも使用可能です。それぞれに長所と短所があります。e メーター向けスーパーキャパシタ・バックアップ電源のリファレンス・デザインは、スーパーキャパシタを充電するためにディスクリート回路を使用し、グリッドがダウン (商用電源が停電) したときにスーパーキャパシタの電圧をそれより高いシステム電圧に昇圧するために 『TPS61022』 昇圧コンバータを使用しています。『TPS61022』 の電流出力能力は 『TPS61094』 ソリューションより高いのですが、必要な外部部品点数がより多くなっています。
別のアプローチは、電流制限機能とアクティブ・セル・バランシングを搭載したスーパーキャパシタ・バックアップ電源のリファレンス・デザインです。このデザインは、『TPS63802』 昇降圧コンバータをスーパーキャパシタのチャージャ兼電圧レギュレータとして使用し、追加のディスクリート充電回路を不要にしました。ただし、このデザインは、電力 ORing、充電電流の制限、スーパーキャパシタの充電終了電圧の設定を実行するために、引き続き追加のディスクリート部品を使用しています。
表 2 に、バックアップ電源の各アプローチで非常に重要な諸特性を示します。
ソリューション | 『TPS61094』 | 1S 昇圧の設計 | 2S 昇降圧の設計 |
コア・デバイス | 『TPS61094』 | 『TPS61022』 | 『TPS63802』 |
デバイスの静止電流 (IQ) (μA) | 0.06 | 27 | 11 |
整合性 | 高い | 低い | 中程度 |
充電回路 | 統合 | ディスクリート | 部分統合型 |
スーパーキャパシタの構成 | 1S | 1S | 2S |
3.3 VOUT の場合の最大出力電流 (mA) の平均値* | 300 | 650 | 1.300 |
ORing 回路 | 統合 | ディスクリート | ディスクリート |
スーパーキャパシタの充電終了電圧がプログラマブル | 統合 | ディスクリート | ディスクリート |
充電電流がプログラマブル | 統合 | 統合 | 統合 |
VIN の範囲 (V) | 0.7 ~ 5.5 | 10 ~ 12 | 3.3 ~ 5 |
VOUT の範囲 (V) | 2.7 ~ 5.4 | 2.2 ~ 5.5 | 1.8 ~ 4.9 V |
バックアップ電源の主な部品 | 『TPS61094』 | ディスクリート・チャージャ、『TPS61022』 | 『TPS63802』、『LM6100』、『INA181A』、何らかのオペアンプ |
*『TPS61094』と『TPS61022』の場合、最小の VIN は 0.7V です。『TPS63802』 の場合、VIN は 1.3V です。
表2:バックアップ電源ソリューションの概要
まとめ
ローパワーの各種ワイヤレス規格は、徐々に一般的になりつつあります。高集積、シンプルな設計、最善の軽負荷効率を意図した 『TPS61094』 は、LTE-M、Lora、Bluetooth、その他最新のワイヤレス・インターフェイスを使用するバックアップ電源アプリケーションにとって良好な選択肢です。
より多くの出力電流が必要な場合、電気メーター (電力計) や電流制限に関連する各種リファレンス・デザインが非常に効果的なソリューションになります。これらの各種デザインはより多くのディスクリート部品を必要としますが、GPRS (汎用パケット無線サービス) など、RF 送信電力がより大きい用途にも対応できます。
参考情報:
+『TPS61094』データシート
+『TPS63802』ハードウェア開発キット
+アプリケーション・ブリーフ(英語):
“Solving the Backup Power Supply Challenge for Electricity Meters with High-Power Wireless Communications”
+アナログ・デザイン・ジャーナル(英語):
“What It Is, What It Isn’t, and How to Use It”
※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2021年11月2日)より翻訳転載されました。
※ご質問はE2E Support Forumにお願い致します。