医療用アプリケーション、試験 / 測定、ワイヤレス インフラなどの分野には、クロック、データ コンバータ、アンプを使用し、ノイズの影響を受けやすいシステムが多く存在します。それらのシステム向けの電源を設計するエンジニアは、精度の向上や、システム ノイズの最小化という共通の課題に直面します。「ノイズ」という用語は人によって意味が異なりますが、この記事では、「回路内の抵抗とトランジスタが生成する低周波数の熱ノイズ」を「ノイズ」と定義します。ノイズは、スペクトル ノイズ密度曲線 (単位はμV/√Hz) により、また出力積分ノイズ (単位は2乗平均平方根 (RMS)μV) として確認することができ、一般的に10Hz ~ 100kHzの特定の範囲にわたります。電源内のノイズは、A/Dコンバータの性能低下や、クロックのジッタ発生につながる可能性があります。
クロック、データ コンバータ、アンプに電力を供給する場合、従来の構成では、図1に示すように最初の段でDC/DCコンバータ (またはモジュール) を使用し、その後段にLDO(低ドロップアウト) レギュレータ、さらにその後段にフェライト ビーズ フィルタを配置します。LDOの例は、TPS7A94、TPS7A82、TPS7A84、TPS7A52、TPS7A53、TPS7A54 などです。この設計アプローチで、電源から負荷に伝わるノイズとリップルの両方を最小化でき、負荷がおおむね2A以下の場合は適切に動作します。ただし、負荷が大きくなるほど、LDOで生じる電力損失が原因で、効率と放熱管理に課題が生じます。たとえば、標準的なアナログ フロント エンド アプリケーションでは、ポスト (後段) レギュレーション LDO により電力損失が1.5W増加する可能性があります。設計のために低ノイズで効率の良い方法を探している方々もいるでしょうが、他の選択肢があるかもしれません。
図1:DC/DCコンバータ、LDO、フェライト ビーズ フィルタを使用する標準的な低ノイズ アーキテクチャ
LDOの代わりに低ノイズの降圧コンバータまたは降圧モジュールを採用
電力損失を管理する 方法の1つは、LDOで生じるドロップアウト (電圧降下) を最小化することです。ただし、このアプローチは、ノイズ特性に悪影響を及ぼすことになります。加えて、より多くの電流を供給できるLDOは通常、より大型であり、設計のフットプリントやコストの増加につながります。低ノイズを確保すると同時に電力損失を制御する、より効果的な方法は、図2に示すようにLDOを電源設計から全面的に排除し、低ノイズのDC/DC降圧コンバータまたは降圧モジュールを使用することです。
この構想を目にすると、ノイズを低減する重要なデバイスを取り除いて、どのように低ノイズの電力を供給するのかと疑問に思うでしょう。 多くのLDOには、エラー アンプへのノイズを最小限に抑えるために、バンドギャップ リファレンスにローパス フィルタがあります。TPS62912とTPS62913で構成される低ノイズ降圧コンバータ ファミリや、TPSM82912 と TPSM82913 の各モジュールは、ノイズ低減 / ソフト スタート ピンを実装しており、ここに1個のコンデンサを接続できます。図3に示すように、内蔵のRfと1個の外部接続コンデンサCNR/SS を組み合わせてローパスRCフィルタを形成しています。この実装は本質的に、LDO内に存在するバンドギャップ ローパス フィルタの挙動を模倣したものです。TPS62913またはTPSM82913で実現できる範囲よりいっそうの低ノイズが必要な場合、TPS7A94のような低ノイズLDOを採用できます。この製品には、ドロップアウトの低減や、消費電力の低減という特長があり、しかも超低ノイズを実現できます。これについては、アプリケーション ブリーフSBVA099で詳細に説明しています。
図3:バンドギャップ・ノイズ・フィルタによる低ノイズ降圧回路のブロック図
出力電圧リップルの対策
どのDC/DCコンバータでも、使用するスイッチング周波数と同じ周波数で出力電圧リップルが生じます。高精度システム内にある、ノイズに敏感なアナログ電源レールは、スペクトル内での周波数スプリアスを最小化するために、リップルが最小の電源電圧を必要とします。この周波数スプリアスは通常、DC/DCコンバータのスイッチング周波数、インダクタの値、出力容量、等価直列抵抗、等価直列インダクタンスによって異なります。これらの部品に起因するリップルを低減するために、エンジニアは多くの場合、LDOを使用するか、または小型フェライト ビーズとコンデンサを組み合わせてπ(パイ) フィルタを形成することで (あるいはその両方で)、負荷側でリップルを最小化します。TPS62912とTPS62913のような低リップル降圧コンバータや、TPSM82913のような低リップル モジュールは、フェライト ビーズ補償とリモート センス フィードバック機能を内蔵することで、このフェライト ビーズ フィルタを活用します。このフェライト ビーズのインダクタンスに追加の出力コンデンサを組み合わせることで、出力電圧リップルのうち高周波成分を除去しています。その結果、図4に示すように、リップルを約30dB低減できます。
図4:フェライト・ビーズ・フィルタの前(a)と後(b)の出力電圧リップル
まとめ
システムのノイズとリップルを低減する機能を統合した低ノイズ降圧コンバータは、LDOを必要としない低ノイズ電源ソリューションの実現に有効です。当然ながら、求められるノイズ レベルはアプリケーションごとに異なり、出力電圧が変われば必要な性能も異なるので、自身の設計にベストな低ノイズ アーキテクチャを判断できるのは設計者だけです。しかし、ノイズの影響を受けやすいアナログ電源の設計を簡素化し、電力損失を減らして、設計全体のフットプリントを縮小したい場合は、低ノイズ降圧コンバータの使用をご検討ください。
参考情報:
- 『リップルとノイズの低い降圧コンバータ TPS62913を使用して、ノイズの影響を受けやすいADC設計に電力を供給』
- 『低リップルで低ノイズの降圧コンバータ TPS62913を使用してAFE7920に電力を供給』
- DC/DCコンバータを使用する際の出力電圧リップルへの影響の詳細については、技術記事『降圧レギュレータの出力リップルに関する理解と管理』をご覧ください。
- TPS62912とTPS62913を活用してノイズとリップルを低減する方法については、トレーニング ビデオ『低リップルで低静止電流のDC/DCポイント オブ ロード降圧コンバータ』をご覧ください。
- 降圧コンバータに起因する出力電圧リップルを低減する他の方法については、ホワイト ペーパー『LDOを使用せずに高効率かつ低消費電力の電源を製作するのに役立つ低ノイズと低リップルの手法』をご覧ください。
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※上記の記事はこちらの(2023年7月4日)より翻訳転載されました。
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